SHORT <Daily Life:morning/Tomomasa>
　友雅警部の朝は遅い。
　別に朝が苦手というわけではないが、起きる気がしないというのが本音である。
　ハルカ・シティのビジネスホテルの一室をICPOの名義で借りられるのも派遣捜査官ならではの特権である。さらに一人でこうして現場に送り込まれるのは友雅だけであった。
　なぜかは知らないが、友雅と組んだ捜査官はことごとく警官を辞めるか、友雅とのコンビを解消して欲しいと課長に懇願する。
　そのおかげで、誰にも邪魔されることなくこうして一人でまどろんでいられるのだった。

　コンコン。
　ドアをノックする音。
　誰が来たのかは分かっているので布団の中の友雅は返事をしないで布団をかぶった。
　カチャリとドアが開く音がする。スペアキーを渡してあるので別にドアが開けられても不思議なことなど何もない。
「友雅殿、おはようございます」
　布団をかぶっているので分からないのだが、おそらくぴしりと敬礼を御丁寧にしているのだろう。毎朝毎朝ご苦労様なことだ。
　時間はおそらく11時くらいだろう。
　すでに出勤時間はとうに過ぎているのだが、友雅を監視する人間はいないためこうしてのんびりしているのだった。
　だがハルカ・シティ警視庁に怪盗ジェイドの担当指揮官として派遣されてきたのだから、困るのは警視庁の者たちだった。案の定、友雅の前に指揮官をしていた警視庁のアニマール警部はしびれを切らせて迎えを毎朝送り込んでくることにしたようだ。
　ただし、迎えの者だけは友雅が御指名をしたのだが。

「友雅殿、起きてください」
　肩の辺りを布団の上から揺すられる。
　狸寝入りを決め込んで何の反応も示さない友雅に、さらにゆさゆさと揺さぶってきた。
「う〜……ん」
「起きてください！｣
　そして布団を剥ぎ取られて、ようやく起こしに来た者の顔が視界に入る。
　鷹通・フジワラ…ハルカ・シティ警視庁の怪盗ジェイド担当の新米刑事。
　刑事になるのが夢だったようでその生真面目さは目を見張るものがあるのだが、本人の頑張りはことごとく空回りしている。
　その優しげな面影に、困っている顔は良く似合う。
　本人には迷惑極まりないだろうが、友雅はその顔が気に入っていた。
　なので無駄に彼を困らせることばかりしてしまう。からかってみたり、怒らせてみたり、その反応は毎回新鮮でとても友雅を楽しませてくれた。
　もちろん友雅の朝の目覚まし係の御指名は鷹通にお願いしてある。スペアキーも彼だけに渡してあった。
手渡す際に「朝じゃなくても、君なら24時間歓迎するよ｣と囁いたのだが、鷹通にはまったく通じず「24時間いつでも起こしに行かなくてはならないのですか？」と返されてしまったのは苦い思い出だ。

「友雅殿……わっ！」
　布団をつかんでいた鷹通の手首をつかんでそのまま引っ張る。バランスを崩した鷹通の体は友雅の手によって布団の中に引きずり込まれた。
「あっ！　どこ触って……や……っ！」
　きちんと着込まれた背広のボタンをいともたやすくはずし、さらにシャツのボタンをもはずして手を忍び込ませる。途端にびくんと鷹通の体が跳ね上がって上ずった声が漏れた。
「ここへ来ることはアニマールの許可を取ってきたんだろう？　それなら起こすのに手間取ったと言って、少しくらい遅れても平気かな｣

　べちっ！
　そう言って、羞恥と怒りで赤く染まった鷹通の顔に自分の顔を近づけようとした途端、鷹通の両手が友雅の顔を叩くようにして押しのけようとする。
「平気じゃないです！！　今でも遅刻なんですよ！！｣
「急がなくても、どうせ予告状が来ていない限り警視庁で待っているのはアニマールと書類の山だけじゃないか」
　そのどちらも友雅にとって興味ないし、煩わしいだけだった。
「それでも仕事なんですっ！」
「大丈夫。アニマールも書類も逃げたりしないから。ね？」
　顔を抑えていた鷹通の手を握り返して自分の顔から離すと、にっこりと微笑む。
　だがこの笑顔は鷹通には通用しない。
「駄目です！　大体なんでいつも裸なんですか！？」
　それは昔から服を着て寝る習慣が友雅にはないからである。毎朝、起こしに来た鷹通は布団から出る友雅を見ると視線をそらして赤くなるのだ。
「君とこうするためさ」
　そうして口付けで言葉を封じてしまえば、こっちのものだった。
　段々と深くなってくるキスのせいで次第に鷹通の頬は桜色に染まってくる。瞳だけはいけないと思っていながらも、体がいうことを聞かないようで眉を寄せていた。
「鷹通……」
　ベッドの上でもみ合っていた二人だったが、ようやく鷹通が大人しくなったことで体勢を整える。
　さあ、これからどうしようか……
　もう抵抗する気力もないようだし、このままいただいて……

　バン！！！！！

「予告状がきたぞ！！｣
　飛び込んできたのはもちろんアニマール警部だった。
　ベッドの上の二人にかまう様子もなく懐から白い封筒を取り出して、誇らしげに掲げる。
「ちんたらしてる暇はないぞ、鷹通！！」
「は……はいっ」
　アニマール警部の登場により、友雅との情事の余韻は一気に吹き飛んだらしい鷹通がベッドから飛び起きて衣服の乱れを直す。
　すぐさま捜査本部へと引き返すアニマール警部に、鷹通があとに続いて出て行く。
　そして部屋に残された友雅はベッドに四つんばいになるようにしてがっくりとうなだれた。

「……おのれ、怪盗ジェイド……」

　こうして怪盗ジェイドは気づかぬうちに友雅の恨みを買っているのであった。
　もちろんそれがただの逆恨みだと友雅は思いもしない……

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