−FUNNY DAYS−



　親善大使などと名前だけは立派なものの、実情はマルクト帝国の歴史を学んだり、現在の状況を把握したりと勉強ばかりである。
　別にそれが嫌なわけじゃない。
　自分のワガママをここまで押し通してしまったのだから、そんなことを言ったらアッシュに殴られることは間違いないだろう。完全同位体でありながら、環境が違うと性格も変わってくるもので、彼のほうが自分より沸点が低いようであった。
　それも遠慮する必要のないルークに対してだけかもしれないが。
　ため息をつきながらルークは軍本部のジェイドの執務室の前に座り込んでいた。
　生き返ったら何故かまたもとの長さに戻っていた明るい赤い髪をわしゃわしゃとかきあげる。
「なんだルーク、こんなとこで。いたずらでもしてジェイドに追い出されたか」
「……アンタじゃないんだからな……」
　歳にそぐわないいたずらっぽい笑みは彼にとてもよく似合っていた。
　ただし、大体ルークをネタにからかっているようなときばかりなので、こちらとしてはむっとするわけだが。
　なんにせよこんな軽々しい口調を許す一国の主は彼くらいだろう。
「てゆーか、皇帝陛下がこんなトコに何の用だよ」
「暇だから散歩中」
「堂々と言えることか！」
　ピオニー相手に怒ること自体が体力の無駄遣いだと分かっていても、突っ込まずにはいられない。もしもここに彼の幼なじみがいれば鼻で笑うところだろうが、あいにくと今は残業中だ。
「で、番犬よろしくこんなとこであいつ待ってるのか？」
「一人で帰るなって言われたからしょーがねーだろ」
　その言葉にピオニーは一度だけ考え込むように目蓋を伏せた。しかしすぐに笑顔に戻ってルークの髪を大きな手で撫でる。
　前は子供扱いされているようで嫌だったけれど、今はそんなに嫌じゃない。
　ここへ来てからピオニーのことをちょっとだけ知ったからだろうか。以前は分からないまま持っていた苦手意識もほとんど残っていなかった。
「じゃあ、俺と遊ぶか。他にやることもないんだろ？」
「……まぁな。何かしようとしてもあいつがしなくていいって言うし。メシくらいなら俺だって作れるのにさ」
　彼の口には合わないかもしれないが、それだって努力しだいでなんとかなる。
　邸に帰っても掃除や選択は昼間のうちに済まされているし、食事の支度も出来ていたり、ジェイドがしたりするので、ルークは本当に勉強以外することがなかった。
　人に言えば恵まれているというのだろうが、その上に胡坐をかいてはいけないとルークは経験上知っている。
「俺のメシでも作るか？　ルークの作ったもの食べてみたいしな」
「なんでアンタに……」
「残ったものをジェイドに食わせればいいだろ。材料は豊富にあるぜー」
　遠まわしだが、ピオニーはルークのしたいことをさせてやるといってくれているらしい。
　お抱えの料理人だって宮殿に何人もいるのだから、わざわざ素人同然のルークの手料理など食べる必要もないのに。
　力がある。
　財力や地位じゃなく、強さが。
　それを知った上で人に優しく出来る。
「……作ってやっても、いいぞ」
　自分はちっぽけなプライドでこんな言い方しか出来ないのに。それでもピオニーは嬉しそうに笑うから。
　ジェイドも自分もこの人にはきっと勝てない。


■　　■　　■


　出来上がった料理を前にして、ピオニーは柄にもなく神妙な顔をしている。
　作ったものはジェイドの好きなカレーライス。理由は簡単だということもあるが、やはり先のが一番だろう。あとは多めに作ってもおかしくないものでもある。
　とりあえず野菜の形こそいびつだが、見た目的にまずそうには見えないはずなのだが、ピオニーは難しい顔をして腕を組んだまま動かない。
「なんかおかしいか？」
「うーーーーーーーーーーーん」
「カレー嫌いなのか？」
「いや、好きだ。でもなぁ……なーんか足りないんだよな」
　きちんとレシピを確認してやったから大丈夫だと思うが。
　それに食べもせずに匂いだけでそんなことが分かるものなのだろうか。ピオニーのことだからそんな能力を有していてもおかしくはないけれど。
　シェフの作るものはもっと他に何かあるのだろうか。
「たまねぎ、じゃがいも、にんじん、肉……普通のカレーだろ」
「そういうことじゃない。なんてーかもっと華だな」
　はな？　花など入れるのか？
　食材の中にそんなものがあっただろうか。
　ガタン、と大きな音を立ててピオニーが椅子から立ち上がる。くるっとすごい勢いでこちらを振り返ったかと思うと、大きな手がルークの両肩に置かれた。
「な、何だ？」
「分かったぞ、足りないもの」
「足りないものって何だよ？」
「色気だ」
　いろけ。イロケ。―――色気？
　たしかに色気がないとジェイドに以前言われたことがあったが、カレーにまでそんなものを入れるとは初耳だ。
　色気のあるカレーというのも見たことがない。
　ジェイドが作ったマーボカレーから始め、みんなの作るそれぞれのカレーを思い出したりしてると、いつの間にかピオニーがメイドから布の塊を受け取っていた。
「これを着ろ、ルーク」
「―――え？」
　びらっと目の前に広げられたものは、今それを持ってきたメイドが着ているのと似た服。要するにメイド服というやつである。ルークも公爵邸でよく目にしたものだった。
　着ろ、といわれても。
　サイズが合わないだろと的外れなことを考えたが、どうもサイズは自分とそう変わらないように見える。
　ルークも平均身長くらいはあるし、剣を扱うので服のサイズは小さいほうには入らない。その自分が着れるのだ、女性ものではないだろう。そしてこんなものがすぐ出てくるとなると、とルークは恐る恐る服から目線をピオニーに移す。
「これ、おさがり？」
「ああ、そうだ。結構前のだけど、虫も食ってないし大丈夫だろ」
「アンタそういう…趣味なのか？」
　そうは見えなかったけれど、人目を忍ぶ趣味があってもおかしくはない。
　ピオニーは一瞬目を丸くして、それから声をあげて大笑いしだした。
「はっはっはっはっは！　違うって、これはジェイドのお下がり」


　―――え。


　付き合いはそんなに長くはないけれど、同じ邸で暮らしたりしていたのにまったく気づかなかった。そういう趣味があっても、別に馬鹿にしたり軽蔑したりはしないのに。
　いやでも彼が実際これを着ている姿を想像すると、なんだか複雑な気分になるが。
「何だこの服、脱がしづらいな」
　またしてもいつの間にかピオニーがルークの服に手をかけている。
　ボタンの多い服で苦戦をしていたから、これ幸いと慌ててその身を離した。
「っ、待てよ！　なんで俺がそんなの着なきゃならねーんだ！」
「ジェイドはこういう服好きだぞ。自分でも選んで着たくらいだからな」
「で、でもこんなの……！」
「これ着てカレーを持っていけばジェイドは大喜びだって。付き合いの長い俺が言うんだから間違いない、大丈夫」
　大丈夫という言葉がこれほど信用ならないのは初めてだ。
　しかしピオニーが嘘をついたりするはずもない。ジェイドは適当な嘘をつくけれど、ピオニーは嘘のほうがまだまともじゃないのかという発言をする。だからたしかに彼の言葉は真実なのだろうが。
「ていうか、似合うわけねーだろ！　男だぞ、俺は」
「似合う。ちゃんと見れるようにしてやる。だから着ろ」
「……実はアンタの趣味じゃないのか……」
「何を言う。男のロマンだ、これは」
　ルークにはまったく理解できないものの、妙に真剣なピオニーの勢いに押されて渋々と着替え始めた。本当に昔のものなのかサイズはルークにぴったりである。いつのものかは分からないが、もしかしたら自分もいつかジェイドの背に追いつけるかもしれない。
　冷める前に食べろとルークが言ったから、支度をしている間ピオニーは嬉しそうな顔をしてカレーを食べていた。反応を見る限り、出来は悪くないようである。
　本当に喜んでくれるだろうか。
　余計なことをするなと怒られないだろうか。
　こんな格好までして、本物のメイドの手で薄く化粧までされて、そんなことになったら自分はただの道化である。笑われるならそれはそれでいいけれど、呆れられたら嫌だ。
　終わりましたといったメイドが離れ、ルークは片眉を上げたままうんざりした顔で立ち上がる。ピオニーは持っていたスプーンをくるくる回して満面の笑みを浮かべた。
「お、ルークすげえ似合ってるぞ」
「嬉しくねえ」
「ジェイドも絶対大喜びだって！」
「……チクショウ」
　そう言われると言い返せないのが悔しい。
　しかし本当にこんなので喜ぶのか。
　もうなんだかピオニーがあまりに嬉しそうで、本当は彼の趣味ではないのかと８割思ったとしても仕方のないことだろう。
　とっととジェイドにカレーを食べさせて着替えてしまおうと思いルークは立ち上がったが、部屋のドアを開けようとして思いとどまった。
　この格好じゃ外に出れないではないか。
　仮にも親善大使という身。
　自分の行いはキムラスカの行いでもある。こんな姿を晒すわけには断じていかない。
「ジェイドならそのうち来るから待ってろよ。おかわり」
　部屋の中にいた側付のメイドにジェイドへの伝言を頼んでピオニーは空になった皿をこちらへ差し出す。格好だけでなく給仕までさせるつもりらしいが、おかわりをしてくれるということは味は気に入ってくれたのか、とルークは皿を受け取ってカレーとご飯を盛り付けて渡してやった。
　なんだか気疲れしたので、どかっと椅子に座ってカレーを食べ続けるピオニーを眺める。
「うまいか、それ？」
「んん。華もあっていいなぁ。俺のところに嫁に来るか、ルーク」
　さすがにそれは冗談だと分かっているので、ルークは頬杖をついてバァカと言ってやった。二人だけなら遠慮をする必要もない。しかし豪快な食べ方なのに下品にならないところがさすがだ。
「結構本気なんだけどな。あいつより俺のほうがいい男だと思うだろ？」
　一国の主と、大佐。
　比べるまでもなく地位はピオニーのほうが高い。
　外見に関しては好みの問題だろう。二人ともまったくタイプが違うから。
　性格はまあ、これもどっちも極端のような気がする。
　でも、そんなことよりも―――


「一緒にいたのはジェイドだったから」


　初めての外の世界。
　初めて出会う人々。
　初めて行った村。
　そこで出逢ったのはピオニーではなく彼。
　きっときっかけはそれだけのこと。
　途中、嫌われたり憎まれたりもしたけれど、そんなことがあっても一緒にいることを選んでしまったから。あとは自分に出来ることをするだけ。
「皇帝になんかなるんじゃなかったな」
「何言ってんだよ」
　珍しく後ろ向きな発言にルークは瞠目する。ピオニーの表情が別段暗いわけでもないが、それでも彼らしくない発言だっただろう。
　ジェイド相手ならともかく、自分に言うことではない。
「そしたら旅に出てルークと出逢ってたかもしれねーぜ」
「俺はアンタが皇帝で良かったって思ってる。他の誰かが皇帝なんて考えられねーし」
　空色の瞳を興味深そうに瞬かせてピオニーはルークの顔を見る。
　同じように一国の王であるインゴベルト六世には血のつながりはなくとも、ナタリアという最愛の娘がいた。しかしピオニーの親族は政争の際にほとんど殺されるか、縁を切ったらしい。詳しいことは軍事機密扱いであったが、おおまかなことは歴史書に記されていた。
　この人も寂しいのかもしれない。
　皇族として生まれたために、ジェイドの妹のネフリーに振られたとも聞いていたし、たしかに皇帝なんてなりたくてなるものじゃないのだろう。


「―――でも、ちゃんと俺と出逢っただろ」


　皇帝であっても。
　いや、皇帝でなければ出逢ってなかったかもしれない。
　そして毎日こうやって顔を合わせているのだ。これからもそうだろう。
「……ルーク」
　持っていたスプーンを置いたピオニーが真っ直ぐこちらを見てくる。なんだか恥ずかしいことを言ってしまった気がして、ルークはあからさまに視線をそらしたが。
　黒いスカートの布をぎゅっとつかんで、羞恥の表情でそっぽを向くルークの頬にピオニーが手を伸ばそうとしたとき、突然扉は開かれた。
　ノックもなしに遠慮なく顔を出した男は部屋の惨状を見て、かなり微妙そうな表情になった。よく馬鹿な発言をして困らせたときの顔である。
「何かあったのです、か………これは………？」
　冷たい視線は普通の格好じゃないルークではなく、手を上げたままのピオニーへ向けられた。
「タイミング悪い男だなー。もうちょっとだったのに」
「馬鹿ですか。ルークにまた妙なことを吹き込んだのでしょう。親善大使に給仕係の真似事をさせるなど、やっていいことと悪いことがあります」
　そこでルークはしゅんとうつむく。
　やっぱり怒られた。
「今日は貴族院のジジババどももいねーから平気だって」
「この城の人間が見ています」
「あー？　あいつらはルークのことそんな目で見ねーって。むしろカレー作る姿見て感動してたぞ、城の連中は。そんでもって、この格好はお前のために」
　ジェイドの目がフリジットコフィンよりも冷たくなる。
　何が大丈夫だ、あの馬鹿皇帝。
　こんな格好までしたのは決して彼を怒らせるためではなかったのに。それでもジェイドの気に障ったらしい。
「…勝手にジェイドの服着て悪かったな。すぐ脱ぐから」
　人の服を勝手に着られたらそれは気持ちのいいものではないだろう。
　それにジェイドの意外な一面ということで伏せておきたかったことなのかもしれないし。まずは怒りを解いてもらわなければ。
「―――陛下、何と説明をしたのです？」
「お前がこういう服が好きで、昔選んで着たものだっていっただけだぜ」
「貴方という人は……分かってて言ったでしょう」
「さー？　何のことかわからねーなー？」
「ジェイド、俺誰にもいわねーから！　お前がその…こういう趣味でも」
　今度こそジェイドの視線が凍りつく。
　ピオニーはぶふっと吹きだして腹を抱え、声無く笑いだした。
「あまりこの馬鹿皇帝の言うことを真に受けないように、ルーク。私には女装癖はありません」
　とことんまで冷たい声だが、特別ルークのことを怒っているわけでもないようだった。そろっと視線を上げて彼の顔を見ると眉間に皺を寄せて眼鏡を指で押し上げている。
　少しだけ機嫌が直ったのか。
「でもこれお前のなんだろ」
「十年以上も前のものですよ。焼き払おうとしたらどこにも見当たらず、まさかこんなところでお目にかかるとは思いませんでした」
「女装が趣味じゃねーのに、なんでこんなもの持ってたんだ？」
　だっはっはっはとピオニーが大声を上げて笑い、テーブルをバンバン叩いている。
　今の状況の一体何がそんなにおかしいのだろう。こちらは誰かさんのおかげでジェイドの機嫌をとりなそうと必死だというのに。
「年の終わりに軍部で行う忘年会で使った衣装です」
「ぼうねんかい？　なんだそれ？」
「今年一年の終わりにやる慰労会みたいなものですね。全員何か一芸を披露しないとならないんですよ」
「へー、そんなのがあんのか。今年もやるなら見てみてーな！」
　興味を持ったルークを見て、ジェイドは難しい顔のまま首を横に振った。
　やはりマルクト帝国の人間で、軍関係者でなければだめなのだろうか。
「とてもあなたに見せられるものじゃありません。軍の威光に関わります」
「はぁ？」
　一体忘年会とはどんなものなのだろう。このジェイドがそこまでいうのなら、よほどとんでもないことになっているのだろうが。
　そもそもこのジェイドがこんなメイドの服を着る時点で恐ろしいけれど。
「ひっひっひ、そんでな、コイツがこの服着たときにな……うあはははは」
　何か思い出したらしく、ピオニーは説明することも出来ないくらい笑い転げている。そんな上司を見てジェイドはとりあえずルークに手を差し出した。
「仕事は終わりました。さっさと着替えて、こんな人放っておいて帰りましょう」
「うん……ごめんな、ジェイド」
　手をとって立ち上がると、この機会に謝っておくことにする。
　また彼に余計な気を使わせてしまったから。
　おとなしく部屋の前で彼を待っているべきだったのだ。そうすればジェイドもこんな過去の服を見ないで、嫌な思いをせずにすんだのに。
「あなたが謝る必要はありません」
「ふへ、カッコつけてんなよ。女装した時、あまりの美女っぷりに野郎どもが大騒ぎしてさ。男でもいいとかいってしばらく追いかけられてたよなー。あーあれはおかしかった」
　やっと笑いの発作から立ち直ったらしいピオニーはさらりとジェイドが言わなかったことをバラしてしまう。目を細めて親友をにらみつけるとジェイドはルークにそんなこともありました、と微笑んだ。
「というわけで、今のあなたの格好はとても危険なので、さっさと着替えましょうね」
　そんなことで大丈夫なのかマルクト帝国。
　ジェイドほどもともと美人ではないからそんなことにはならないだろうが、それでもいつまでもこんな格好をしていたくないという気分にはなった。
　服を着替え始めるルークを見てピオニーはつまんねーの、と嘆いている。
「そーだジェイド、お前もこのカレー食え。ルークが作ってくれたんだぞ、俺のために」
　本当のところは違うのだけれど。
　ジェイドに食べて欲しいと期待しつつ着替えながら耳を済ませると、いつもどおりの淡々とした口調で一言。
「結構です」
　やっぱり、駄目か。
　胸が一瞬だけ締め付けられたけれど、ルークは何事もなかったかのように着替えを続けた。ピオニーとルークの間に立つようにして背を向けているジェイドの表情はこちらからは見えない。

「私は邸に戻ってから私のためだけに作って頂きます」

「……テメー……」
　ピオニーが小さく悪態をつくが、そんなことに気づかずにルークはひょいっと顔を上げた。まさか彼から許しが出るとは思っていなかったから。
　これでようやく彼のために何か出来る。
「いいのか、ジェイド？」
「ええ。でないとこうしてこの方の面倒までみてもらわなきゃならなくなるようですから。これからは食事の支度をあなたに任せるとしましょう」
「ああ、任せとけって」
　嬉しそうなルークが着替え終えると、さて帰りましょうかとジェイドがピオニーの私室の出口へ向かって歩き出す。重そうなドアを開けて、ルークが来るのを待っていた。
　振り返らず、一目散にそちらへ向かおうとしたとき、腕を不意につかまれる。
　通り過ぎざまにピオニーがルークのそれを大きな手でつかんだのだ。そして耳元に寄せられた口元から、ジェイドに聞こえないようにささやき声が漏れてくる。
「………ルーク、俺のほうがいい男だってこれから証明してやるよ」


　―――え？


　どういう意味だろうとピオニーを見上げるが、空色の眼からは何も読み取ることは出来なかった。ただ不敵な笑いはルークに対する挑戦的なもので。
　これから何かが起こる予兆のような気がしてならなかった。
「行きますよ、ルーク」
「あ、うん！」
　でもまだルークは迷わない。
　ピオニーの手を振りほどいて、扉のほうへと向かった。
　振り向くことなく、真っ直ぐに。

あれ、いつの間にかピオルクだぁ…