「あーもーだりぃ！」 スタジオから出て、第一声がそれだった。 続いて出てきたジェイドはやれやれと苦笑する。文句を言いながらも、見知らぬ場所で一人になるのが怖くて、自分のそばを離れようとしない。 ―――ガイもいないことですしね。 教育係でお世話係で幼なじみの青年はこの場には呼ばれなかった。 ついでに彼の敬愛する師匠もここにいない。 今の彼は気に入らないだろうが、唯一の知り合いである自分のそばにいる。 「はいはい、もう終わりですよ」 「つーか、何で俺がこんなめんどくせーことしなきゃならねーんだ！」 髪の長さと先程の会話を聞く限り、どうも彼は親善大使としてアクゼリュスへ向かう途中のようだ。一体どういうことか分からないが、次元を超えた場所にここは位置しているらしい。 久しぶりに見る姿。 このあと彼が変わることを自分は知っている。 「もう俺は帰るぞ！ ガイはどこにいんだよ！？」 にしてもだ。 スタジオに入ってからというもの、ガイガイガイガイガイ。もうすでにその名前は聞き飽きた。いくらこの時のルークが自分のことを嫌っているとは言っても、面白いものではない。 彼といたはずの自分も彼をよくは思っていないだろうが。 それでも面白くない。 「さー、どこでしょうねー？」 「誤魔化すなっつの！ とっととアクゼリュスに行くんだろ！」 「とはいっても、私がここへ呼んだのじゃありませんし」 多分彼はまた別の世界へ飛ばされていくはずだ、とはいえない。資料を見る限り、そこにもガイはいないようであった。 「んだよ、ジェイドでもわかんねーのか」 「おや、あちらにみなさんがいますよ」 リッド、ロイド、セネル、３人がどんどん扉の奥に姿を消していく。銀髪の剣士は扉をくぐろうとしたが、跳ね飛ばされた後「クレアー！」と叫んでどこかへ走り出して行った。どうやらあそこがルークの次の行き先のようだった。 赤い長髪をなびかせて、ルークは落ち着きない様子でそちらを伺う。 「あっちか！」 ここへ呼ばれた趣旨を考えれば、そこは出口ではないとわかりそうなものだが、じっとしていられない子供は駆け出そうと大きく足を踏み込む。 ぐいっ。 その腕をすかさずつかむと、ルークはバランスを崩して転びそうになる。 「何だよ、ジェイド！」 振り返ったその目は、ジェイドのことを見ていない。 自分以外見えていない目。 これから彼が何を見るのか、知っている。 「ジェ……」 さらに手に力をこめて青年の身体を引き寄せると、驚き小さく開かれた唇にジェイドは自分のそれを重ねた。 一瞬だけの口づけ。 そして手を放す。 「ほら、あなたはあちらですよ」 とんっと背を押してやると、ジェイドは消えていくルークを見送る。 蒼碧の大きな目が、今度はこちらを見ていた。 「――また逢いましょう」 何度でも。 出逢いは必然と、分かっているから。 ジェイドはくるりと方向を変えると、別の扉を開く。その先には自分のいた世界があるはずだった。 そしてそこで、また出逢う、彼と。 |
バカでーす２。