−裏Rumbling Hearts−



「―――と、ここで寝てしまっては明日が大変ですよ」


　疲れたのか安心したのかうとうとしかかっているルークの頬をつつく。
　邪険にその指を振り払われたが、放っておくわけにもいかない。
「なんだよ、もう寝てもいいだろ」
「腹を壊してもいいのならそれでもいいですが、明日向かうメジオラ高原にトイレは設置されてないと思いますよ」
「……何の話かわかんねーんだけど」
　そういえば今までは礼儀と後のことを考えて身体の中に出したことはなかったか。
　肌を重ねる行為をしたことがなかったルークは、そもそも男同士で出来ることも知らなかったくらいだ。身体の中に精液が残ればどういうことになるのかも知っているはずがない。
　何といえば怒らせずに済むだろうかと、ジェイドは眼鏡をかけ直しながら分かりやすく説明することにした。
「身体の中に入れたものの後始末をしないと、腹を壊すということです」
「中って……う……これ、か……？」
　言われてようやく自分の中にある異物感を思い出したようだ。忘れていれば眠気のほうが勝っていたようだが、指摘されてはどうしようもなく気になりだしたのだろう。どこかそわそわと落ち着かない様子でむくりと起き上がった。
「なんで中に出したんだよ！　うっ」
　やはり怒り出してしまったか。
　しかし力むとあまりよろしくないらしく、すぐに顔をしかめて唇を噛む。ジェイドは弾き飛ばされていた毛布を手にとってルークの身体を包み込んだ。
「何でといわれると、音素をやり取りするためとしか答えようがないですが。仕方なかったとはいえ責任は取らせていただきます」
「え、お、おい！！」
　問答無用で毛布に包まったルークを抱き上げる。突然のことで驚いたのか首にしがみついてきて少しばかり苦しかったが、それでも部屋から出て浴室へ足を向けた。
　お互いにバスローブをまとっただけだったり、毛布に包まってたりあられもない格好であったが、この屋敷には他には誰もいない。
「どこ行くんだよ！」
「浴室です。これ以上ベッドを汚したら眠れないでしょう」
「だったら自分で歩け―――」
「ないでしょう。廊下中を汚す気ですか」
　別にそれもかまわなかったが、人の屋敷では気が引けるのだろう。ルークはやっと腕の中でおとなしくなる。
　そこからは難なく浴室へ運び込むと、ようやくルークの身体を浴室の床の上におろす。ここなら汚れても心配ないと思ったのだろう、きちんと二本の足で立つとかぶっていた毛布を濡れる前にと自ら脱衣所のほうへ投げた。
「では後ろを向き、膝を突いてください」
　淡々とした口調で言ってみても、ルークは何故か動かない。
　これからどういうことになるか、薄々分かってきたのか顔を赤くしてとんでもなく嫌そうな表情をしている。
「どうしました？」
「……あの、さ……お前がやんのか……？」
「責任を取るといったはずですが。ほら、早くしないと大変なことになりますよ」
　動揺している間にジェイドはくるんとルークの身体を後ろ向きにさせる。そして自ら左膝を突くと、雫が零れ伝っている足の膝から指を滑らせ、だんだんと足の付け根に近づけていった。。
「な……っ！」
「ずいぶんとたくさん飲み込んだんですねぇ」
　逃げようとするルークの脚をつかむと、前のめりになって倒れそうになる。
　それを両手で止めてやると、うまくルークの体が四つんばいになった。背中から覆いかぶさるようにしてそれ以上逃げられないように左手で彼の胸をおさえる。
「離せよ！」
「ご自分でなさいますか？　ここに指を入れて中のものを出せばいいだけです。あ、もちろんちゃんと出来たかどうか責任持って確認させていただきますけど」
「バ―――！！！」
　さっきまではジェイドが動けないと思っていたからともかく、こうして理性を取り戻してしまった今そんなことは出来ないだろうと踏んで、とっとと指を突っ込んでしまう。
　先ほどまでもっと太いものが入っていて、さらにローションと精で濡れているそこは抵抗なくジェイドの指を飲み込んだ。
「―――っ……！」
　声のない悲鳴とともにルークの背が反り返る。
　抵抗がなくなったところを見計らって挿れた指の関節を曲げ、何かが溶けたのかと思うほど熱い中をかき回す。
「すごいですね」
「…な……に、が……っ！」
「私の精液でいっぱいです」
　かっとさらにルークの顔が赤くなる。
　なんとか逃げようと手と足をつかって動き出すが、ルークの進む方向には壁しかなかった。追いつめられた彼は壁に手を突いたところで怖々と顔だけ振り向かせる。
「どこへ行くんですか。そんなに私のを入れていたいのでしたら止めはしませんよ」
「うるせ……っ……！」
「先ほどのように自分でやってみますか？　選んでください」
　自分から逃げることなんて出来るはずがないのに。
　無駄な抵抗を毎度毎度学習能力がないのかと思うが、こういう駆け引きも楽しんでいるのでジェイドは機嫌よさそうににこにこと笑う。
　困惑したルークの顔は悪くない。
　怒っているのも悪くない。
「……ジェイドが……やれよ……」
　どうせ自分でやっても見られることに変わりはない。それなら受身であるほうがまだ羞恥が少なくて済むと判断したのだろう。
　なかなか学習能力がないようだ。
「はい。では脚を少し開いてください」
　ルークはしぶしぶと脚を横にずらすと、見ていたくないというように顔をまたジェイドからそらした。どうせ目を瞑っているから気づいていないのだろう、そのしがみついている壁に鏡がついていることを。
　おかげでこちらからはしっかりと彼の表情が見えた。
　再び蕾に指を忍ばせるとすぐに突っ込んだりせずにくすぐるようにしてみたり、軽く押したりしてやる。するとそのたびに小さく身体が震えて、ルークの呼吸が乱れた。
　まだ身体が鎮まりきっていないのだ。
「は、やく…しろ……って……！」
「了解しました」
　なるべく平静を保った口調のまま、ジェイドは指を必要以上にゆっくりと挿れる。
　焦れているのか欲しがっているのか、その指を本人の意思とは関係なく蕾が締め付けてきた。途中でくっと指を曲げると、中の液を少しずつかき出していく。
「……ふ……っ……く……」
　本当に腹を壊したらナタリアに治癒してもらうという手もあるが、本人の名誉のためにもとりあえずはきちんと中を綺麗にしてやることにする。
　問題は浴室という反響が大きい場所なので、いちいち乱れたルークの息遣いが耳に届く点だろうか。
「…ん、ん……」
　もしかして理性を試そうとでもしているのか。
　鏡に突いている手を上から空いている手で握りこんで、赤く火照っているうなじに口付けを落とした時点で、もう落ちているのかもしれない。
「あ―――…？」
「まだ足りないんじゃないですか、ここ」
　挿れている指である一点を引っかいてやると、ルークの身体が大きく動く。
　足に力が入らなくなったのか座り込みそうになっているところを、後ろからジェイドは両手で抱きとめる。どのみちあれでは硬い床で膝を痛めたはずだ。
「っ……ジェイ…ド……！」
　子供のように抱っこされた状態になり、首をひねらせこちらを見上げて抗議をしようと口を開いたルークに唇を押し付ける。
　我慢が出来ないのはこちらのほうだ。
　余裕がないのも。
　深く口付けながらも、今度は手を前に回して上を向きかけていたルークの中心を握りこんだ。
「……んっ！？」
　こすり上げるように自分の精液で汚れた手を動かしてやると、すぐにそれは硬く大きくなっていく。ルークはキスをされながらも首を横に振ろうとするが、それを執拗に追いかけて封じてしまう。
　もう片方の手を胸に滑らせて、すでに硬く尖っている突起をつまんでやれば、完全に抵抗をする力を失ったようでくたりとジェイドにもたれかかってきた。

「―――ルーク」
　手の動きを止めて、つらそうに皺を寄せている眉間に軽く唇を落とす。
　少しだけ落ち着いたのかルークは重たげな目蓋を上げる。ジェイドはその顎をつかむと、自分のほうではなく壁のほうへ顔を向けさせた。
「見えますか？」
「な、に………っ…ぁ……！！」
「どうですか、今のご自分の姿は」
　鏡の存在にようやく気づいたルークは暴れだそうとしたが、そこをぎゅっと強めに握ってやれば急所であるから大人しくなるしかない。
「…は、なせ―――！！」
「本当に離しましょうか？」
　手をぱっと離し、それから指先でつう、と根元から形をなぞってやる。
　腰ががくがくと震えてルークはまたしてもジェイドの胸に収まるしかない。悔しそうにこちらを見上げてくるが、最初で選択を誤ったのだからこうなるのは当然だろう。
「すごく可愛い顔をしてるでしょう」
「ふ…ざけ……んな……っ……」
「生意気な口は塞いでしまいましょう｣
　実のところ理性などとうの昔に手放していた。
　彼がそうさせるのだ。彼だけが自分を乱すのだから。
　ジェイドは両手でルークの膝裏を持ち上げると、すでに硬くなっていた自分のものの先を蕾にあてて、今度は身体をおろしてやる。
「う―――……！」
　指と同じくずるりと呑み込まれていき、ルークにすべて包み込まれる。
　心地よいのはたしかなのだが、目の前の鏡に映る彼の表情を見ると嗜虐心をくすぐられて仕方ない。ティアでもあるまいし、彼も人の心を狂わせる特殊な第七音素を扱っているのではないかと思ってしまう。
「ほら、よく見えますよ。あなたの中に全部入っているのが」
「…あ…くま……っ」
「ならばあなたは淫魔でしょうか」
　ルークがその言葉を知っているかは分からないけれど。
　くすっと笑ってからジェイドはルークを抱えている手を上下させる。
「っ……ぁ…………」
　鏡越しの視線を感じて前を覆いたくなったのだろうが、不安定な身体を支えるためにルークは手を上げて後ろにいるジェイドの両肩をつかむしかない。
　その間にも奥まで貫かれて、揺れる身体の中心から雫がこぼれだしている。
「や…っ……ん……」
　動きに合わせて浴室中に声が響く。
　それがさらに欲情を煽り、ジェイドは手を動かすのをやめて下から一気に奥まで腰を突き上げた。

「あ……ぁ―――！！」

　ぴしゃっと鏡に勢いよく白い雫が飛び散る。
　同時にぎゅっと強く締め付けられてルークの奥にまた解き放ちそうになるが、今度は引き抜いたところですべてを放った。





「………今度から自分で後始末やるからな！」
　湯船に浸かりながらアヒルのおもちゃを持ってジェイドを牽制しながらルークは怒鳴る。
　やっと自分の判断が間違っていたことに気づいたらしい。
　それ以前の問題にはまったく気づいてないようだが。
「もう一人でできるんだからな！」
　手を貸そうとする大人を怒る子供のように見えて仕方ないのはどうしてだろう。そんな子供に手を出しているのが悪いことのように思えてくるではないか。
　ジェイドは両手のひらを湯の中で合わせると、水鉄砲のようにしてお湯をルークの顔面に飛ばしてやる。
「ぶっ！！！！」
「全然かまいませんよ。一人で出来るというのなら、今度はそんな余力も残らないくらいにして差し上げますから」
「っ……テメェ……！！！！」
　投げつけられたアヒルをかわしてジェイドは濡れた前髪をかきあげる。
　それから一段と笑みを深くして、怒りに震えるルークに問題を教えてやることにした。


「後始末を自分でやるということは、また中で出してもいいんですね」


　はっ、と息を呑むルークを残して、わざと勢いよく立ち上がる。波打つお湯が襲い掛かりまたルークは怒っているだろうが、振り返らずにジェイドは笑いながら浴室を後にした。

michicoはぴばー！
というか嫌がらせじゃないのか、これじゃ……すんませんすんません！！！
そんなわけで後始末編でした！