−Rumbling Hearts−



　少し無理をしすぎたようだ。
　地核でフォンスロットを解放などしてしまったものだから、体内音素が足りなくなっている。せめて封印術さえかけられていなければこんなことにはならなかったはずだが、今のジェイドにはあれだけで限界だった。
　その封印術をかけられることとなった元凶はといえば―――


「おい、ジェイド！　しっかりしろ！」


　隣で泣きそうな顔をしながら声をかけてくれていた。
　風呂から上がり、脱衣所で貧血を起こして座り込んでいたジェイドは薄く目を開く。
　他の誰かだったらうるさい、と二度と口がきけないようにしてやるところだが、彼にこんな風な心配をされるのは悪くない気分だった。
　以前の彼ならそんなことは絶対しなかっただろう。他人のことなど目に入っていなかったから。なら今の自分は彼の視界に入っているということだ。
「具合悪いのか？　ティアかナタリア呼んでこようか？」
　第七音素を保有しながら、ろくに使い方も知らない彼は青ざめた顔でおろおろとしている。立ち上がろうとした彼の腕をつかんでジェイドはなんとか引き止めた。
「ここがどこだかお忘れですか、ルーク？」
「あ…そっか。ここに他の奴入れたくないんだっけ……でも……」
　場所を思い出してティアとナタリアを呼び出すことを考えていたルークはそれは出来ないと気づく。秘密の隠れ家というわけでもないが、グランコクマにあるジェイドの屋敷はルーク以外にその存在を知らせてはいなかったし、知らせるつもりもなかった。
　そのために一人のときだけと条件付けして鍵まで渡してあるのだ。
「私なら大丈夫です。ちょっと立ちくらみがしただけですから」
「病気とかじゃねーよな？　ティアみたいに音素が汚染されてるとか」
「あれは彼女だからです。私のは原因もわかっていますし、病気じゃありませんから少し休めば回復しますよ」
「……本当だろうな？」
　ティアの命はこのままいけば危ない。
　だからルークは必要以上に心配をしているのだろう。彼女を救う手立てがないと知りながら、さらに彼女を危険に晒す行動をしているから。
「ただの疲れです。私も若くないもので」
「…………」
　いつもならよく言うぜとか呆れて言うところなのに、今日のルークは何の反応も見せない。もともと色素が薄いために色白な肌だが、今は紙のように顔を真っ白くしているジェイドの左腕を取って肩を貸すようにして立ち上がる。
　一人でも立ち上がれるほどには回復していたが、せっかくなので楽をすることにしてルークにもたれかかることにした。
　冗談を返すだけの余裕もないのか。
　まあ、そうでなければわざわざ鍵を使うはずもない。
　彼の身体に埋め込んだ屋敷の鍵。
　一人の時に自分の名前を呼ぶことで身体の中から発現するようにしてあり、さらに元に戻すには口付けを交わさなくてはならないという代物。
　最初は怒っていた彼も今ではそれを忘れているようだ。
　ジェイドをベッドに寝かせるとまだ青ざめた顔でどうしたらいいのか迷っている。
「夕飯は食べたのか？」
「ええ。それよりもう少し落ち着きなさい。明日からの同行に差し支えるようなら私は自分から言いますよ」
「…ジェイドなら嘘ついてついてきそうだけどな」
　よほど信用がないらしい。
　足手まといになると分かれば他人を即切り捨てるジェイドは、自分であっても例外などないというのに。
「世界の命運がかかっているときにそんなことはしません」
「ならいいけど……いつから具合悪かったんだ？　シンクと戦ったときに怪我でもしたのか？」
「怪我ならティアとナタリアに治してもらっています。そのあと譜陣を書くのにフォンスロットを開放したでしょう。あのときに大量の音素を放出したために、一時的に体内音素不足になっているだけですよ。これは時間が経てば自然に治りますから」
　ベッドの隣に立っているルークは顎に手を添えて難しそうな顔をしている。
　ジェイドとしては特別難しいことをいった覚えはないのだが、他に考えることでもあるのだろうか。
「あのさ、お前のドレイン・マジック使ってみるってのは？　あれって敵の譜力を奪うことが出来るんだろ。だったらそれで回復できるんじゃねーか？」
　ルークにしてはいい考えだとは思う。
　少なくともジェイドのいったことをきちんと理解して、その上で自分なりに考えた方法なのだろう。どこか誇らしげに語る青年であるが、そこには欠陥があることを忘れている。
「誰から奪うというんです。あなたからというのは論外ですよ。あの譜術は私よりも被術者のほうの負担が大きいのですから、効率が悪すぎる。それに大量の譜力を抽出するのには不向き、なにより降下作戦に必要なあなたにはそんなことは出来ません」
「そっか……その辺の人に協力を頼むとか駄目か」
「皇帝陛下のお膝元で、合意の上でもそんなことは出来ません」
　一般人にそんなことは出来ないし、軍人だとしたらジェイドの立場も危うくなる。それでなくともネクロマンサーなどと恐れられているのに、これ以上は指揮官としても不要な脅威をもたらすことになりかねない。
「ちぇ、いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」
　もう少し先まで考えるようにしてもらいたい。
　いや、ここまででも及第点か。
「ルーク、そんなところに立ってないで、あなたも休みなさい」
「……俺、帰るよ」
　自分のアイデアが採用されなかったことで落ち込んだわけでもあるまいが、ルークは元気ない調子でそんなことを言う。
　踵を返す前に名前を呼んで引き止めた。
「また自分には何も出来ないとか思っているのですか」
「ここにいてもお前の邪魔にしかならないだろ。俺になんてかまってないで一人でゆっくり休んだほうがいいって」
　やれやれ。
　こんなときは以前の傲慢さが欠片でも残っていればいいのにと思う。アクゼリュスの件で自分の考えに自信を失い、レプリカであることで自分の存在価値まで見失ったルークは落ち込みが酷くて放っておけなかった。
　一人にさせておくとマイナスにしか考えられないのだから。
　そばにいて邪魔になど思うはずもない。
　どんな自分を見せてもなおそばにいてくれようとする人物は少ない。人から見捨てられることのつらさを知っているルークは他人に対してそんなことを出来なくなっていた。
　決して裏切ることのない人間。
「邪魔ではないですよ。それに、一つだけあなたに出来ることがあります」
　ずるいのは自分のほうだと、ちゃんと自覚はある。
　ルークはその言葉を聞いて打って変わって表情を明るくし、大きな翠緑の瞳を輝かせた。なんだなんだとこちらを覗き込むその姿は、彼をご主人様と慕う聖獣にそっくりで微笑ましい。
「道具なしで他人から音素を取り込む方法があることにはあるんですが、協力する気はありますか？」
「やるよ。俺は何すればいいんだ？」
「音素を行き来させるのにもっとも単純な方法は交合することですね」
　コウゴウ？とルークは聞きなれない言葉に首をかしげている。
　頭の中の辞書を検索してみても思い当たる言葉はなかったのだろう。困った顔でジェイドの説明を待っていた。
「交合―――性交とも言いますね」
　他にもいくつか言葉はあるが、ルークが王家跡継ぎを残すためにガイから教養として習ったとすればこれが一番無難だろう。
　やっと意味が分かったルークは顔を一気に赤くして、わずかに身を引く。
「そ、それって……」
　変なものだ。
　ここへ来ればそういうことになると分かっていただろうに、今更何を照れることがあるのか。それこそ何度も肌を重ねているのに。
　でもそういう初々しさがジェイドをさらに楽しませているのだけれど。
「別に強要はしませんよ。このままで悪化するわけでもありませんから」
「ぅ……お前できねーだろ……さっき倒れてたくせに」
「そうですねぇ、難しいですねぇ、でもルークの協力があればできないことはないですよねぇ」
　満面の笑みを浮かべながら言ってみる。正直なところ照れ屋でへそ曲がりなルークなら怒り出してもおかしくはないところであった。
　しかしここへ来たことを考えると、彼もそうなることを望んでいことはたしかなのだ。


「協力って……どうすればいいんだよ……」


　目線をそらしてうつむくルークはどうやら覚悟を決めたらしかった。
　そろそろ眩暈もなくなってきたし無理をすれば動けないこともなかったが、ここはルークの好意に甘えてみてもいいのではないか。こんなこともうないかもしれない。ジェイド自身今の無様な姿をさらけ出しているだけで反省をしている。
　しかしでもまあ、こうなったのならなったで何もしないのは惜しい。
「いつも私がしていることを思い出してみてはどうですか」
「…………」
　ためらって身動きが取れないルークに対して、わざと冷たい視線を送ってやる。
「無理なら結構です」
「や……やればいいんだろ！」
　ジェイドの上にかかっていた布団をばっとめくり上げて、ベッドの上に膝を突く。これからどうするのかと思ったが、ルークは自らの衣服に手をかけ始めた。
　そう、いつもの順序からすればルークが先に脱がされている。
「………っ……お前も脱がすぞ」
　最後の一枚まで勢いだけで脱ぎ去ったルーク。
　布一つまとっていないその健康的な素肌を見ただけで触れたいと思ってしまうが、今そんな欲望のままに行動してはせっかくの機会を逃してしまうことになるだろう。
　ジェイドは羞恥に肌の色を染めるルークの動きを、楽しそうに目を細めて眺め続けた。
　足をまたぐようにして馬乗りになると、ルークはジェイドの着ているバスローブに手をかける。ぎこちない手つきで腰紐をほどいて前をはだけさせた。軍服のままだったら構造が複雑すぎて間取っただろうが、風呂上りなのが幸いする。
　これでようやく次に進むのかと思えば、ルークはジェイドの身体から目をそらして、また動きを止めた。
「あとは入れれば、いいんだろ……」
「ちゃんと準備をしなくては駄目ですよ。このままでは入りませんから」
「……準備ったって……やったことねーし……」
　それ以上答えないジェイドに、ルークは悩んだ挙句行動を起こすことに決めたらしい。手をそろそろと伸ばしてジェイドの中心をつかむと、腰を折り曲げて身をかがめ、顔を近づけていく。
　ためらいながら怖々と口を小さく開き舌先を出し、ちろりと先端を舐めたルークはそこでいったん動きを止めた。
　やはり駄目か、とジェイドがそんな彼を見下ろしていると、今度は唇の中に割っているように口内に含まれる。口の中は緊張のあまり乾いていたが、やがて唾液が分泌されて滑りがよくなった。
「……ん……ぅ……」
　どうしたらいいのか要領がわからずにもごもごしているルークだが、自分のものを咥え苦しげに眉を寄せているその姿だけで背筋がぞくぞくする。
「…歯を立てては駄目ですよ」
「う……ん……」
　結局半分くらいしか咥えられないままルークはおそるおそるジェイドのものを舐め始めた。
　言われたとおり、歯を立てないように舌だけで口の中のものの形をなぞりだし、いつもジェイドが執拗に攻め立てる場所を懸命に舐めている。
　どちらかといえばそのひたむきな姿の方で熱が集まってきているが。
「……っ！」
　ぴく、と別の生き物のように反応し始めた途端、驚きのあまりルークはぱっと顔と手を離す。口の横を唾液が伝うその姿はなんとも隠微さを感じさせたが、本人は動揺しているだけだろう。どこか目が泳いでいる。
「もう終わりですか？」
「ご、ごめん……やる……あのさ、こんなでいいの、か……？」
　初めての行為に自信が持てないのだろう。
　ジェイドは微笑みながら手を伸ばしてルークの髪を撫でてやる。
「初めはこんなものでしょう。ほら、早くしないと最初からやり直しですよ」
「うん―――…ん……」
　褒められたと感じたルークは緊張がわずかにほぐれたのか、笑みをわずかにこぼして再び口を大きく開く。
　真面目で結構なことだが、別の意味で心配だ。
　悪い人間にだまされたりしなければいいのだけれど。と、自分のことはまったく考慮に入れずにジェイドはルークのことを思う。
「…っ……ふ……ぅ……」
　余計な力の抜けたルークは口の中に含んでみたり、唇や舌で刺激を加えてみたりといつもジェイドがしていることを試していている。
　さすがにそこまでされればジェイドでも余裕がなくなるわけで。
「っ―――やればできるじゃないですか。そろそろ自分の準備をしてもいいですよ」
「……でもまだ…出して…ねーだろ……」
　こういう状態においても主導権を手放すものかと、ある程度のところでストップをかけた。
　口の中を汚してやりたいという思いもなくはないが、初めからそんなことをすれば二度と今後は期待できなくなるだろう。もう少し慣らしておく必要がありそうだ。
「出したらもう一度やり直ししなければなりません。それに……ねえ」
　その先を言わずにわざとらしく話を振ってルークの身体を目を細めて眺める。
　こちらからは頭を撫でる以外何もしていないはずなのに、若い身体はそんな状態でも反応を見せ始めていた。そんな視線に気づいたルークはあたふたと布団で前を隠す。
「う……うるせー！」
「私は何もいってませんが」
「でもうるせえ！」
　支離滅裂だ。
　ルークはこれ以上ないくらい顔を赤くして怒っているが、これから先は今の羞恥とは比べ物にならないだろうに。
　しかしここで止まっていてはこの先などないわけで。
「あなたの準備もしてくださいね。痛いのはお互いに嫌でしょう？」
「準備って……自分で……やる、のか……」
「協力するとやり始めたのはあなたでしょう。もし、どうしてもというのなら私がしてあげないこともないですが。―――どうしても私にして欲しいですか？」
　不穏そうに笑ってみせると、ルークはうーうー唸りさんざん迷った挙句、観念したようにやる、といって布団から手をのける。
　しかしそのままジェイドの横に座り込むと、どうしたらいいのか分からず困り果てていた。
「ほぐすんですよ」
「いや、でも、どうやって……」
「まずは濡らすのがいいでしょうね。唾液でも精液でも」
　ルークはその言葉にまた恥ずかしがりつつも、自分のひとさし指を口の中に入れる。
　こちらを向いてやるのはさすがにできそうにないらしく、せめて隠そうと横向きになって足を立てることでジェイドの目から遠ざけた。
　それではジェイドは退屈なわけで。
「こちらを向きなさい、ルーク」
「……ヤダ」
「放置されると私の準備が無駄になります。大体いつも私がしていることじゃないですか。もう見てないところなんてないんですけれどねぇ」
「そーゆー言い方はヤメロ！」
「せっかくこれも貸して差し上げようと思ったのですが……」
　ベッド脇のテーブルから手に取ったのは小さな小瓶。
　ルークはそれはなんだと思いながらも見覚えはあったのだろう。
「それ、何に使うんだ？」
「準備を楽にするためのローションです。よく私が使っているでしょう」
　よこせ、とルークがジェイドに飛び掛ってくる。
　腕をあげてそれをかわすと、必然的にルークがジェイドを押し倒すような態勢になった。すかさず背中に腕を回して彼の自由を奪ったが、それでも手を伸ばして瓶を奪おうとする。
「代価を支払わずに人のものを奪ってはいけないと教わりましたよね」
　旅の出会いはそこからであった。
　ルークはやっとおとなしくなってジェイドの胸に手を突いて身を離そうとする。もっともこちらは手放す気はなかったが。
「やればいいんだろ、やれば！」
　口を尖らせてヤケ気味に言い放つルークにジェイドはにこりと満面の笑みを浮かべる。
　これくらいはいいだろうと胸の上にいる彼の頭を押さえつけるようにして自分に近づけさせ、不貞腐れた唇に軽く口付けた。
「すみません。助けて頂いているのはこちらのほうでしたね」
「え……無理させてんの俺のせいもあるし……」
　それでルークは怒るのをやめたらしい。
　こうもあっさり自分に騙されてくれると、やはり目の届かないところにやるのが心配になる。今のうちはまだいいが、その先は―――しかしジェイドはそこで思考をやめた。
「これ、使ってください」
　小瓶を渡してやると、受け取ったルークは移動しようか迷いながら、瓶とこちらとを見比べている。だがやがて小瓶の蓋をその場で開けて、左手に中身をあけた。加減が出来なかったのか指の隙間からローションがつたい落ちてくる。
　約束を破る気にはなれないルークはジェイドの腹の辺りに跨って腰を上げた。それから前のめりになってジェイドの胸に小瓶を持った右手を突き、怖々と濡れた左手の指を下半身へ伸ばしていく。
「……っ……つめた……」
　目の前、というか上にあるルークの顔がしかめられた。
　今の勝負はルークの勝ちかもしれない。近づきすぎたこの状態ではルークの顔くらいしか見えないではないか。
「っく……！」
　指先で弄んだ挙句やがて指先でも入れたのか、くぷっという音とともにルークの口から何かこらえるような声が漏れる。
　その場所が見えなくてもこの顔が見れただけでもいいか、とジェイドは妙に満足してしまった。
　ルークとしては無意識にそんなことをしているのだろうが。
「……ん……っ……」
　くちゅくちゅと見えない場所から濡れた音が聞こえ、羞恥とは別の意味で火照り始めたルークの顔は何もしていないジェイドまで追い詰めようとする。

　―――早く触れたい。

　最初からそうすればよかったと、少しだけ後悔しながらルークの腰を両手で支えて、自分の上にぺたんと座らせる。
「じぇ……ど……？」
「あとは余計な力を抜くだけですね。少しだけ手伝って差し上げます」
　戸惑っているルークの濡れた左手を取ると、自分の手を重ねて起き上がりかけているルークの中心部を包み込む。
「あ……っ……！？」
　びくっと身体全体が震え上がったのが伝わってくる。
　ジェイドはそのまま逃がさないよう彼の手をつかんだまま上下に手を動かし始めた。
「…や……ぁ……」
　首を力なく横に振っているものの、身体は正直なもので先端から雫をこぼし始めている。さらにジェイドが手の力をゆるめたところでルークは快楽を得ようと自分で手を滑らせていた。
　そっと手を離しても気づかないほどに夢中になっている。
「……ぅ……あ―――……」
　若い身体は限界も早く、一段と大きくルークの身体が跳ねたと思うと、白い液体がジェイドの顔から胸にかけて飛び散ってきた。
　脱力感に襲われぼんやりとしていたルークだったが、ジェイドの状態に気づいた途端慌てだす。
「ご、ごめ……拭くから……！」
　焦って手でぬぐおうとするが、その手もローションと先走りの汁でねっとりと汚れている。
　それにそんな必要はなかった。
　ジェイドは頬にかかった白の液体を右手の親指でぬぐって、そのまま赤い舌で舐め取る。ルークが顔を赤くして止めようと手をつかんでくるが、お構いなしに胸にある精液も人差し指にとってぺろりと舐めて見せてやった。
「き、汚いって……！」
「美味しいですよ。それにこれにも譜力が含まれているのですからもったいないじゃないですか」
「そうなのか？　け、けど……」
「ほら、まだ終わりじゃないでしょう」
　というか、そろそろつらいものがあった。
　半端に舐められ、そのままルークのあんな淫らな様を見せ付けられては、目の毒としか言いようがない。今もジェイドは隠してはいるものの必死で自分の理性と戦っている。
「う、ん……そうだな……入れて…いいか？」
「ええ、お願いします」
　そう言われればルークはもう逃げられない。
　まだ力の入らない腰をゆっくり上げて少しだけ後ろに下がり、硬くなっているジェイドのものをそっと握る。構ってもらっていたときよりも大きくなっていることの気づかないで欲しいのは、年上なりのプライドだろうか。
　ルークはそれを蕾にあてがうと、慎重に腰を落としていく。
　最初こそ手を滑らせていたもののやがて先端部が身体の中に埋め込まれていった。
「……ん―――っ」
　苦しいのだろうルークは下唇を噛んで異物感と圧迫感を我慢している。
　しかしそれ以上動くことも出来ないようだった。
　最後まで世話の焼ける。でもその世話も嫌ではない自分がどこか滑稽だと思いながら、ジェイドはルークの締まった腰をつかんで自分のほうへ引き寄せた。
　きちんとふぐされたそこはぐぷ、とぬめる音を立てながらジェイド全てを受け入れる。
「あ……っ―――！！！」
　悲鳴が途中で声にならなくなる。
　ジェイドも熱さと締め付けられる感覚だけで果てそうになるのを抑えるので精一杯だ。なのでしばらく二人はそのまま動かずに衝動をやり過ごす。
　しかし次第にそれだけでは我慢できなくなってくるのは仕方がない。
「……ルーク」
「終わって…ないってんだろ……く……！」
　分かっているという風にぶっきらぼうに零すと、震える両手をジェイドの胸に突いて腰を上げていく。それも力途中で尽きてまた座り込んでしまったが。
　諦めることをしないで何度も同じことを繰り返すと、次第に座り込むことがなくなり動きもなめらかになっていく。苦しそうなのは相変わらずだが、それでも先ほどまでよりも苦しみは消えていっているように見えた。
「………っ……！？」
　ルークの動きが止まるのとともに、きゅっと急に締め付けられてジェイドはうめきそうになる。
　どうやら中のどこかにあたってしまったらしい。さっき出したばかりで元気を失ったそれが鎌をもたげ始めている。
「ちゃんと続けて」
「……っ……ふ……」
　言われてまた腰を動かしだすルークだが、自然と同じ場所を探り当てている。
　快楽に従順なのはどの状況においても変わらないらしい。何も知らないままジェイドが教えたのだからそれも当然かもしれないが。
「…ぁ……あ……っ」
　恍惚とした表情でジェイドのものを咥え込んでいるルークに、思わず目が細まる。
「いい眺めですね」
「な……っ！？」
「おや、また動きが止まりましたよ」
　我慢しきれなくなったジェイドが下から突き上げてやる。くたっと倒れこんできたルークの身体を抱き寄せると、そのまま態勢を入れ替えた。
　そしてルークが何かを言う前に唇を乱暴にふさいでやる。
「ん―――」
「ふふ、忘れ物です。でもずいぶんと頑張ってくれましたから、そろそろご褒美をあげましょう」
　組み敷いた状態のまま腰を進めてやる。
　突然のことに驚いていたルークもすぐにジェイドの動きに翻弄され始め、せめてもの反抗のつもりか背中に爪を立てた。
「…っ……や…ぁ………っ」
　部屋中に響くのは濡れた音と肌がぶつかる音、それに合わせるかのようなあえぎ声と乱れた吐息。
　ねじりこむようにしてやれば、ジェイドの背中にかすかな痛みが走る。けれどその痛みさえ甘く感じて、さらに酷いことをしてやりたいと嗜虐心を煽るだけの結果になっていた。
「じぇ……ぃ…ど……っ……」
　翠緑の瞳からも、口端からも懇願の雫がこぼれている。
　身体を見てもそろそろ限界だというようにとめどなく白い液体がこぼれ出ていた。
「……ふ…ぁ……も……ムリ……」
「そうですね……ルーク―――」
「っ……う―――」


　名前を呼ぶのとともに一番深くまで突くと、一瞬目の前が真っ白になる。


　くぷり、とルークの中から白いものがはみ出てこぼれ、肌とシーツを汚す。ルークもびくびくと背筋を浮かせながら何度か身体を痙攣させると、欲望を解き放ってぐったりとベッドに倒れこむ。
「………っ……は……」
　息を乱しているルークの身体を抱きしめるようにしてジェイドも横になった。
　涙で濡れた目じりに、次に唇の端に軽く口付けてやる。
　無理を言ったのにここまで自分のためにしてくれた。これが自分以外でも同じだっただろうが、それでも今は自分だけのものだ。
　そう思いたかった。
「……ジェイド……」
「はい」
「具合…よくなったか……？」
　どう見てもルークのほうがぐったりしている状況でまだそれを訊かれるとは思わなかった。ジェイドはにこりと笑って汗ばんだ額に口付ける。
「おかげさまで」
「そっか……良かった………」
　ほっとした顔で微笑むルークはあまりにも無防備で。
　再び犯してやりたいという欲望よりも、今まで知らなかった安堵を覚える。
　そばにいてくれることが嬉しいと。
　自分のために懸命になって心配してくれることが嬉しいと。
　笑ってくれることが嬉しいと。
　そんな彼に自分がしてあげられることはほとんどない。
　いつもの皮肉ならいくらでも言ってやれるが、誰かを喜ばせることができた記憶がない。他にも自分ならいろんなことが出来るが、そのどれも彼を動かすことは出来ないだろう。


「―――ありがとうございます」


　だからせめて笑おう。
　眠りに落ちる瞬間に、最後の瞬間に、あなたも笑っていてくれるように。　

michicoさまに捧ぐ……
風邪ネタにどうしてもならなくてごめんなさ……！