−消失点−



　宿へ着くと何か事情がない限り、ジェイドは極力集団行動をしないようにしていた。
　大きな理由の一つは、マルクト軍所属である彼はたびたび斥候から情報を得ることがあったから。これには機密情報も多いため、他人に聞かせるわけにはいかない。だからわざわざ夕食の後ホテルを出て離れた場所にいるようにしていた。
　軍所属ではないものの、騎士団所属のティアやアニスはそれを知っていて見て見ぬ振りをしている。勘のいいガイも気づいていはいるだろうが、彼はルークに関係しないことならどうでもいいらしく、これもまた無関心を装っていた。
　残るメンバーは二人。
　どちらもキムラスカ王国王家の者。
　血筋なのかなんなのか、空気が読めないというか、マイペースなのか、馬鹿なのか、鈍いのか、そのどれもなのだろうとジェイドは考えていた。
　ナタリアの方は不潔な大人扱い。それはそれで、首を突っ込んでこようとしないのでジェイドとしては誤解を解く必要性も感じていない。
　問題は最後の一人。


　―――ひょこ。


　背後の塀から赤い髪の毛が飛び出ている。
　誰だ、と音素を追跡するまでもなく本人が続いて顔を覗かせた。
　尾行の訓練など受けていないのだから、音素も気配も丸出し。その上ところどころで姿まで見せている。これはもう気づいてくださいといっているようなものだ。
　別に撒くことなどわけはないが、広い街でもなし逃げ回るのも億劫だ。今日のところの報告は書簡でホテルに預かってもらうことにするか、とジェイドは諦めて角を曲がったところで自ら身を隠す。
　音素を絶ち、気配を消すことは軍人全員が出来るわけではないが、特別に訓練を受けたものなら可能だ。しかし追っ手は気配には敏感でも音素には疎い。
　だから気配だけ消してジェイドは追っ手が追いつくのを待った。

「あれ、こっち行ったよな……どこ行ったんだ……」

　やれやれ、とジェイドは肩をすくめる。気配を消しただけで気づかないようではもう少し鍛えたほうがいいかもしれない。それが自分の身の安全にもつながるのだから。
「呼ぶわけにも行かないしなぁ……あ、もしかしてここ入ったのかな。何の店だ？　えーと、そ、そーぷ？」
「ルーク、誰をお探しですかー？」
　場所がまずかったようだ。
　ジェイドは珍しく自分の行動に対してしくじったな、と感じる。だから追っ手がのこのこと中へ入る前に背後へと回って声をかけた。当然気づかれていないと思っていた彼は赤毛を逆立てて猫のように飛び退る。
「じぇ、ジェイド……奇遇だなぁ。お前もこの店に用があったのか」
　まずい。
　まずすぎる。
　店の前でそんな会話をしていては、好奇の視線が突き刺さって仕方ないではないか。
　とはいっても、店の内容を分かっていないルークにはまったく動じる様子はない。
「何のことですか？　私はただ散策をしていただけですけれど」
　あまりうまいごまかし方ではないが、後ろめたいことがあるルークにはそれ以上突っ込むことも出来ない。
　よし、このまま畳み掛ければ！

「そろそろホテルに戻りますけど、貴方はどうしますか？」
「え、あ、俺も一緒に帰る！　風呂は俺が先でいいか？」
　嬉々として答えるルークだが、ジェイドは笑みを浮かべたまま凍りついた。






　―――しまった。







「男同士でホテル……」
「そういう趣味なのか、あの軍人……」


　この街での一人歩きは二度と出来ない、かもしれない。　

ロマンス展開にするつもりだったのに、
途中からギャグになったのでここで終了！
もう一つの理由がね、あったんですけども……伏線失敗！
よく考えたらギャグって珍しいな。