−夢見る羊にきく−





「えーと、お父さんとお母さんと警察の人と…じゃーだったら兄ちゃんも！ごめん！」







とりあえず、思いつくだけの人に謝罪を言って。
ずっと見つめていた缶の中身をぐっと煽った。
しゅわしゅわの、炭酸が喉を焼く。いや、それ以上にその炭酸に含まれる――…アルコールが、喉を焼いていた。

(未成年なのに…、ごめんなさい)

迷惑かけることはしないでおこうと思っていたから。だから、同級生が吸っているらしい煙草とか酒は手を出さなかったのに。
今、悩んで悩んで謝って。結局飲んでしまった。
一気に半分ぐらい飲んでから、息を吐く。

ここからは言い訳でしかないのだが、ずっと寝れてないのだ。その寝れない原因から逃れたくて酒を飲んだ。
ずっと寝れてない。その理由がちゃんとしたものだったら、まあ病院でもいく。いくとも。
けれど理由が言えるものじゃないから、困る。

「言える、わけないし…」

そう呟いて、また一口煽る。
眠ろうとすると、すごく淫らなことが浮かんでしまうなどと。言えるわけがなかった。
目を閉じて、視界に真っ暗になると必ずといっていいほど、自分のほうに腕が伸びてくるのだ。
決して怖いものではない。
むしろ大きくて力強い腕が自分のほうに向かってきて、それを嬉しそうに受け入れる―――そんな夢。

それまでだったらいい。その腕が、女の子みたいな細く柔らかそうなものではなく完璧に男のものだということは、まあ考えないようにしたとしても。

「――…あれ、兄ちゃんだよな…」

腕の主は、実の兄なのだ。なのに、自分は待っていましたとばかりに腕を絡める。
諒兄ちゃんの手がそのまま躊躇なく服を脱がせて、直接に肌に……触る。
その手は、なんか当たり前だけど働いてるって感触で、それが分かるとこっちも余計に息が上がってく。
聞いたことがないような甘い声で名前を呼ぶと、兄ちゃんもなんか興奮したみたいにジャケットを脱いで…それがすごい格好よくてキスをして、と言う。

(俺、から―――…)

強請って貰った唇はすごくすごく嬉しくて。
重ねた部分から溶けていってしまいそうになる。それが怖くて舌を絡めると、今度は体に力が入らなくなるのだ。
余計に不安になって腕を伸ばし、首にしがみつくとあやす様に背中を、またあのぞくぞくする手が擦ってくれる。
安心もするけれど、それ以上に体が、熱くなって―――

「ぅ、わーーーーーーーー！！駄目だ！！　ってか、なんで忘れたくて飲んでるのに、思い出してるんだよ俺！馬鹿だろ！！」

本当に馬鹿すぎる。
力が抜けきって、誰も見てないのをいいことにテーブルに頬をくっつけて撃沈のポーズをとる。
駄目だ。本当に自分は馬鹿らしい。
勢いに任せて最後に煽った酒は、少し急に飲みすぎたようで…思考が羊の世界に旅立とうとしている。
こんな所で寝ていたら、あとで洵にも自分の中でとても噂の兄にも怒られると思う。
けれど、もう羊には勝てなかった。

「―――ぅ……」

しょぼしょぼしていた瞳の先で、やはり噂の彼が出てきた。
忘れようとしても、やはり忘れれるものではなく。一番厄介なのは、会えて嬉しがっている自分だ。
観念していつもの夢のように手を伸ばし、抱きついて。気持ちのまま伝える。








すきだよ…兄ちゃん…








お酒と羊が見せる、泡沫の夢。

「音熊」の峰さんからいただきました！　うへへ！
私のエロ師匠なんですが、今回は禁断っぽいのが書きたいということで、どきどきです。
次回は桃色なんですよね？　にこにこ。待ってます！