−糖蜜−



「じゃあ、僕先に寝るね」
　欠伸をしながら洵が立ったのは時計の針が２２時をさしたころのことだった。
　慎がかけたおやすみという言葉を背で聞きながら部屋を出て行く。そしてリビングに一人残された。テレビからは毎週見ているわけでもないから話の分からないドラマが流れ、周りを騒がしくさせる。東京では何もなくても外から騒音が聞こえてきたものだが、綾凪市はそういったものがない。洵がいなくなってしまうと、どこかさびしくなってしまう。
　昔はそんなもの感じたことはなかったのに。
　両親と、諒と、自分と、洵と結祈。みんなで笑っていた気がする。
「……別にそこまで望んじゃいねーけど、さ……」
　もういない人たちもいる。それは仕方のないこと。でも残った人だけでも笑っていることは出来ないのだろうか。慎はソファの上で膝を抱えて、頭をその間に埋める。
　さびしいのはいなくなった人たちのせいだけじゃない。
　まだ仕事で帰ってこない諒。顔を合わせても笑顔一つ見せなくなった兄。
「……諒兄ちゃん……」
　さびしさの原因なんてわかってる。
　わかってるけど、どうにもならないだけだ。
　ああ、だめだだめだ。慎はテーブルの上に置いてある箱を見て、首を横に振る。せっかく映子が気を遣ってわざわざ家まで持ってきてくれたのだ。
　２月１４日はバレンタインデー。
　世の中の多くの男がそわそわとする日だ。
　学校へ着くまでそんなことすっかり忘れていた慎は、クラスメイトからいくつかチョコレートをもらっている。まだ編入してから間もないのに、もしかして気を遣ってくれたんだろうか。自分に向けられる視線にはとんと疎い慎は、ただお菓子をもらえたというだけでうれしかった。
　こちらに来てからというもの諒の素っ気無い態度に傷ついてきた心が、少しでも癒える気がして。
　下校時間を見計らってか、夕方には映子が訪れ、大きな箱に入ったチョコレートをくれた。早く寝る洵は先に食べたが、自分は少しでも会話のきっかけになるようにと、諒の帰りを待つつもりでいまだ手をつけずにいる。
　いつ帰ってくるのかさえ知らない。
　知らないのに、待つなんて馬鹿だろうか。
　でも東京にいたころと違って、この家で兄の帰りを待つのはそんなに苦痛ではない。どんなに冷たくされても、帰ってくるから。その姿を見るだけでうれしいとか、幸せの感覚が麻痺しているとしか思えないけれど。

　早く帰ってこないかな。
　早く、早く……

　どれくらい時間が経ったのかわからない。つけっぱなしだったテレビの番組がまた変わろうとする頃、外から車が停まる音が聞こえた。はっとひざの合間から顔を上げると、ドアが開く音がする。
　すかさず立ち上がって玄関まで走った。
「おかえり兄貴っ。あの、ええと、映子ねーちゃんが…」
　どさっ。
　返事の代わりのように、諒は手にしていたダンボール箱を床におろした。
　やっと会話のきっかけをつかめたと思ったのに、早速それが途切れてしまうが、箱の上から見えた中身に慎は目を丸くする。ピンクに赤に、色とりどりのラッピングペーパーやリボンで包装された箱の山。
「これ……」
「チョコレートだそうだ。始末しておいてくれ」
　ブーツを脱いで家に上がると、もう箱へも慎へも見向きもせずに階段を上っていく。取り残された慎はその背中と箱を見比べるしかない。
　どうやらまた自分は失敗してしまったみたいだ。
　にしても、帰宅して早々あの態度は何だ。それにダンボール一箱、これ全部チョコレートだというのなら、帰りが遅いのは仕事が忙しいからと思っていたのに、女性たちに囲まれていたせいだというのか。
　途端にかっと頭に血が上る。
　けれど再び姿を見せた諒は、まだ玄関の前に立っている慎に声をかけるわけでもなく、無視して風呂場へと入っていった。
「…………」
　なんだよ、あの態度。
　せっかく映子が持ってきてくれたチョコレートを一緒に食べようと思っていたのに。これだけもらったのなら、もしかしたら諒はもう食べ飽きているんじゃないか。いらないから、始末しておけなんてとんでもないこと言い出したんじゃないか。
　そう考えると怒りも冷めやらない。
　ダンボールはそのままにしてリビングへ戻ると、慎はどかっとソファに腰を下ろした。そしてテーブルの上に乗っている大きな箱のふたをぱかっと開けた。
　形のさまざまなチョコレートが敷き詰められている。減っている分は洵が食べたもので、残りは諒と慎の分であった。その一つをがしっとつかんで口の中に投げ入れる。記憶はそこまでだった。



■　　■　　■



　チョコレート……喜ぶと思ったのに。
　シャワーを頭からかぶりながらついたため息は、水音にかき消される。
　特に興味のないイベントで、一方的にチョコレートを贈られるのははっきりいって迷惑以外の何者でもなかった。学生のころはそれでも断ればすんでいたのだが、これが仕事ともなると角が立つので受け取らないわけにはいかない。部下や保険屋、まさか会議で出向いた先でまでもらうことになるとは思わなかった。
　毎年その処分に困っていたのだが、今年は家に慎と洵がいる。洵はわからないが、慎は甘いものが好きだったはずだ。だから持ち帰ってみたのだが、なんだか逆に怒っているようである。

　――反抗期。

　もしくは思春期というやつだろうか。
　あの年頃の扱いは難しいとよく聞くことだし、未成年の手による凶悪犯罪も増えている。うちの慎がそんなことをするはずもないと思いたいが、いまいち何を考えているのか分からない部分があることも確かだった。
　素直だけれど、頑固なのだ。
　出て行けと何度いっても聞かないし、出て行かないと決めたらてこでも動くつもりはないらしい。
「……あいつらのためだというのに……」
　きゅ。蛇口をひねってお湯を止める。
　浴室から出るとバスタオルで身体の水気をぬぐい、下着とパジャマを身につけた。水分補給がてら、またリビングに向かおうとすると、さすがに途中の玄関から慎の姿は消えている。戸を開けて部屋に入れば、そこはまだ暖房が効いていてあたたかかったし、電気もつけっぱなしだ。といっても慎は放置したまま寝たわけじゃない、まだリビングに残っていてどこか据わった目つきでこちらを見てくる。
「まだ起きていたのか」
「……起きてちゃ悪いのかよ」
　そんなことは言っていない。
　どうやら機嫌が悪いようだ。まだ今日は出て行けといっていないのに。しかし今この状態で出て行けといったところで、絶対に出て行かないだろう。むしろ逆上させるだけかもしれない。
　だったら用事をすませて、とっとと部屋で休むに限る。諒はリビングを横切って台所へ行くと、冷蔵庫の中からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出す。コップにその中身を注ごうとしたところで、視界の片隅に慎の姿が入った。
　いつの間にかソファから立ち上がってこちらに来ていたらしい。
「なんだ？」
　やはりじとっとした視線を向けてくる慎に声をかけると、さらに足を踏み出してきて諒の目の前に立つ。考えていることや思っていることが素直に表へ出てくる代わりに、それがわからないと逆に翻弄されるだけだ。突拍子もないことをし始めるので、面食らうこともしばしばだ。
「慎？」
「チョコ、映子ねーちゃんがみんなの分だって持ってきた」
　指し示したテーブルの上には箱が乗っている。
　大きさ的に３人分が中に入っていたのだろうが、ここから見る限り今もうその中身はない。洵がそこまで食べたとは思えないから、慎が食べたのだろう。
　礼だけはあとでいっておかなければ。
「そうか」
「俺、諒兄ちゃんの分も食べた」
　やはり慎は甘いものが好きなままのようだ。ならばどうして人の分まで食べて不機嫌なのか、さっぱりわからない。どちらかといえば怒るのはこちらではないのか。
　特別チョコレートが好きなわけでも食べたいわけでもないからかまわないけれど。
「ああ、別に……」
　そのあとに続く言葉は慎の唇に封じられた。
　やわらかな感触。冷たいのは諒の方が風呂上りであたたまっているからだろう。滑り込んだ舌からチョコレートの風味と、微かにアルコールの匂い。
　これで突然の行動の理由がわかった。
「――慎、酔っているな」
　べりっとくっついていた身体を引き剥がすと、慎は不服そうにぷうっと頬を膨らませる。しかし大人しくするつもりはないようで、じたばた暴れて出して諒の手からポットボトルが床に落ちる。そちらに気を取られたのがいけなかった。隙を突いて飛び掛ってきた慎のせいで、見事にバランスを崩して二人で床に倒れこんだ。
　下じきになったのは諒で、慎はふふふふと薄ら笑いを浮かべて胸に張り付いている。
「にーちゃんほかほか」
　風呂上りなのだから当然である。
　さっきまで不機嫌だったと思ったら、今度は上機嫌。典型的な酔っ払いである。飲酒した形跡はないから、チョコレートの中のリキュールだけでこんな状態になったらしい。なんとも器用な話だ。
　量も量だからすぐに酔いも醒めると思うが、それまでどうしたものか。
　すりすりと頬をこすりつけてくる慎に困り果てる。また引き剥がすこともできなくはないが、暴れるのは必死。寝かしつけようにも暴れる慎をなだめながらでは、もうすでに就寝している洵まで起こしかねない。
　なんで１７にもなってこんなに手がかかるのだ。
「にーちゃんにーちゃん」
　満面の笑みを浮かべた慎の顔が目の前に現れたかと思えば、次にはそれが近づいてきて、また口づけを受ける。
　手がかかるというよりも、１７になってこれではまずい。
「……やめろ」
　額を手でおしやってなんとか離すが、これまた抵抗をやめない。体勢的に不利なのもあって、身体をどかすところまでいかなかった。
「だめー。兄ちゃんにもチョコー」
「お前が全部食べただろう」
「チョコの味するじゃん」
　することは確かだが、摂取方法がどこかずれている気がする。
　夢中になって唇に吸い付いてくる慎をこのままにしておくわけにもいかない。道徳的な問題とか、良心の問題とかではなく、諒だって警察署長などをしているが一応普通の男なのだ。好きな相手に密着されていては困ったことになってくるわけである。
「……チョコの味はもうわかった」
「俺いっぱい食べたから、もっとする。玄関にあるチョコも食べるから、その分もする」
　しまった。
　あの中から酒の入っているものを抜き出さなくてはならないらしい。
　まったくもってよくわからない理屈であるが、酔っ払いに理屈も道理もないのだ。慎はにこにこ笑ってキスを仕掛けてくる。
　だがそのうちに自分からし始めたのに、顔を赤らめ息苦しそうな感じになってきた。
「ん……にーちゃん…っ」
「だからやめろと言ったんだ」
　諒を抑え込んでいた力が抜け始めてきたので、そのまま肩をつかんで身を離して上半身を起こした。ぺちょんと諒の脚の上に座り込んだ慎はぼんやりした顔をめぐらせたかと思うと、自らのパジャマのボタンに指をかけてそれを外していく。
　うっかり呆気にとられて見守ってしまった諒が止めようとするころには、慎はパジャマを脱ぎ捨てようとするところだった。
「何をしている」
「熱くって……なんか変……」
　酔いのせいだけではないだろう。
　ほいほいとキスなんかするからだ。
　熱を持て余し始めた慎は、両腕を諒の首にからめてまたしても唇を寄せてくる。それだけでもうその熱が冷めることはない。むしろ煽られて広がっていくだけだろうに。
　そしてその熱は、こちらにも伝わってくる。

　冷めない熱が――

「……っ…ふ……ぅ……」
　忍び込んできた舌からはもうチョコレートの風味は消えている。しかしそれにもかかわらず砂糖菓子でも食べているかのように甘い。
　諒はその舌に吸いつき、それから自分のものをからませて翻弄する。合間から濡れた音と熱い吐息がこぼれだして、さらに熱を高めていくのに一役買った。
　さらされた胸に色づいている突起は、もうすでに冬の外気に触れていることで膨らみ始めていた。指先で弾いただけで慎は楽器のように声を零す。
「ぁ…っ…あ、ん……」
　その音を聴いていたくて、つい何度も弄ってやると、くすぐったいのか焦れているのか慎が腰を揺らす。
「もう我慢できないのか」
「だ……だって……」
　首からほどかれた手がもじもじと腰の辺りで動かされる。どんな状態になっているのか想像がつかないでもないが、諒は見下ろしたまま何をしようともしなかった。
　上は恥じらいの欠片もなく脱いだものの、下半身をさらすのには抵抗があるらしい。普通の状態でないならなおのことなのだろう。
　どうしたものかとちらちらと諒の顔を覗き込んでくる様子は、すぐにでもどうにかしてやりたくなる衝動との戦いであった。しかしここでもっと困らせてやりたいという嗜虐心が諒の中に芽生える。
　そんなもの、自分の中にあることさえ知らなかった。
「どうして欲しいのか言わなくてはわからない」
「…う……」
　キスは昔からしていたからねだることを覚えていたが、さすがにそれ以上のことはためらうらしい。唇をかみ締めてこらえている慎の胸の突起をくりっと強めにつまんでやると、その口から一際大きな声が漏れた。
「あっ！」
「洵に聞かれるぞ」
　慎が慌てて自分の口を両手でふさぐ。
　末弟に知られてはならない。
　他の誰にも知られてはならない。
　そういう約束。
　本来なら禁忌とされるべき行為である。それを望んでしまったための代償は大きい。しかし選ばずにいられなかったから、続けていくためには隠し通すしかない。
　手を離した隙に諒はパジャマのズボンの上からすでに硬くなり始めたものを軽く撫でてやる。
「ん…ん〜…っ…」
　口をふさいだまま慎は身体を大きく揺らす。だがそこで諒はぱっと手をどけた。潤んだ眼で見上げてくる顔は不満そうである。
「兄、ちゃん……」
「なんだ」
　わかっているくせに、慎の要望を無視する。それで退くような少年ではない。気性が真っ直ぐな上に、いざというときには誰よりも意志が強いのだ。
　だからこそ挑発に乗りやすい。
「……さ、触って……よ」
　昔からわがままだったのだ。
　東京にいる叔母に引き取られてから、慎も洵も聞き分けよくいい子だと報告を受けていたから、少しばかり不思議に思ったものだ。洵はともかく明るく快活な慎が大人しくしているなんて。
　ここへ来てからも、どうも自分に対してよそよそしさが残っているのか会話がぎこちなくなっているが、本来の慎は素直に自分の考えていることを口に出来る子どもだった。
　何度も困らされたが、それでも嫌いにはなれない。
　むしろ困らされた分だけ、愛しく想った。
　強く記憶に刻み込まれているのはそればかりだったから。
「もっと触って……かまって…諒兄ちゃん……」
　まずい。
　語尾の震えを敏感に察知した諒は、くしゃりと顔を歪めた慎の唇を慌ててふさぐ。目じりにたまった涙がこぼれる一瞬手前。
　一度泣き出してしまうと厄介だから、ぎりぎりセーフといったところか。
「…わかった」
　返事とともに軽く頬にキスをしてから、慎の首筋に鼻先を埋める。同じシャンプーやボディソープを使っているはずなのに、何故か自分のものとは違う甘い香り。くん、と諒が鼻を動かしてみれば、くすぐったそうに肩をすくめた。
　その身体を片腕で支え、もう片手でパジャマのズボンと下着を引き下ろしてやれば、そこはすでに期待の雫を零し始めている。
「あれだけでもうこんななのか」
「っ……ぅ……」
　指先で雫をぬぐって、慎の目の前で見せ付けてやれば気まずそうに顔を背ける。引き締められ閉ざされた唇に濡れた指を突っ込んでやれば、眉間にしわを寄せて首を横に振った。
「お前のものだろう、慎」
「や……」
　わからない。チョコレートなどよりもずっと美味しいのに。
　諒が自らの指先を舐めてみせれば、慎はよりいっそう顔を赤くしてうつむく。
「き、汚い…から……っ！」
「汚くなどない。そんなふうに思っていたら、こんなことなどできないだろう」
　足の上に乗っていた慎の身体を持ち上げておろしてやると、うつぶせに床に転がす。逃げ腰だったため抵抗が遅れた慎が起き上がろうと両手と膝をつくが、その背を諒の手がおさえつけたために四つんばいのまま動けなくなる。
「…ぁ……そこ、は……」
　諒は脚の間に顔を埋めて、秘められた場所を舌で舐る。
　ひくり、とその箇所がうごめくが、まだまだ固い。明日も平日で学業がある慎の身に対して無茶をすることもできず、指と舌で蕾をほころばせようと丹念に濡らしてもみほぐしていく。
「う……ぅ……ん……」
　洵に聴こえることを考慮しているのか、顔を両手に埋めて慎は鼻にかかった甘い声を押し殺そうとしていた。
　しかしそれも長い間持ちそうにない。
　ぱたたと床を濡らすのはこらえきれなかった慎の雫。
　近くにあった冷蔵庫を開けると、中からバターの箱を取り出す。適当に箱を壊して中身を出し、指先に力をこめて爪でそれを抉り取った。
　それを蕾に塗ろうとしてみれば、冷たさに慎の身体が一段と大きく跳ねる。
「ひゃ…っ！」
「我慢しろ」
「つ…冷た……」
　しかし構造上体温の高い場所でもある。すぐに先の塊は溶け始め、中へと指を誘いだす。油分のおかげで引っかかりもなく、指を増やしてもさらに誘うようにひくつくだけだった。
「……ふ……ぅ…に、…ちゃん…」
　指の動きを止めても、こらえきれず慎の腰が揺れる。
　自分の中を探ろうとするように。
　この行為を知るまで、知らなかった自分のことを見つけようとするように。
「…ぁ……あ……」
　自分ではない、誰かを求めて。
　そして後ろへ向けられた顔には乞うような瞳。真っ直ぐに見つめられた諒は、わずかに目を細めてまぶしそうにそれを見つめ返した後、指を引き抜いてやる。
「…っ…兄ちゃん……」
「言わなくてもわかっている」
　それを待つ余裕もない。
　慎の奥にあてがうと、逃げられぬように腰を抱えて一気に突き立てる。
「ぅ――――…っ」
　中はアルコールのせいなのかいつも以上に熱く感じ、あれほど丹念にほぐしたにもかかわらず、諒のものをきつく締め付けてくる。
　逃すまいとするかのように。
　甘い誘惑が諒の理性を壊す。
「…ん……ぅ…う…」
　求める心が止まらない。つながりたいと、快楽を得たいと、征服したいという本能に抗えない。獣のような息遣いが部屋を満たし、つけっぱなしのテレビ番組の音声など、もう耳には届かなかった。
　互いの存在に、身体に、欲望に夢中で。
「っ……ふ……っ…ぁ……」
　脳まで溶けそうなほどに甘い。
　甘いものは特に好きではなかったはずなのに。
　今日がバレンタインデーなせいか――。毎年厄介なものだとばかり思っていたが、これでは来年から無碍にも出来ない。
「…にいちゃ――ぁ……ぅ…んっ！」
「――く…」
　奥まで突き上げると一段と締め付けられ、諒は唇を噛んでなんとか解放しそうになるのをこらえて慎の中から引き抜く。が、そこが限界だった。大きくしなった慎の背を諒の欲望が汚す。同じように床を汚した慎はくたりと四肢を投げ出して、ふるふると小刻みに震えていた。
「…………」
　解放感は少しの間。やがて訪れ始めたけだるさに少しばかり休みたい気分になるが、このままにしておいては慎が風邪を引いてしまう。
　酔いもそろそろ醒めただろうか。
　静かになった慎を起こそうかと様子を窺えば、すぅすぅと健やかな寝息を立てている。騒ぐだけ騒いで、疲れたら即寝るなど、小さな子どもでもあるまいし。
　顔にかかった前髪を指先でかきわけ、まだ幼さの見え隠れする寝顔を眺める。
　それを許してしまう、自分の甘さにはため息をつくしかない。



■　　■　　■



　次の日、いつもどおり洵に起こされた慎は下半身に違和感を覚えるも、半分寝ぼけたまま階段を下りていった。
「ふぁ〜……諒兄ちゃ…兄貴、もう仕事？」
　ブーツを履こうとしている諒の広い背中に声をかけると、相変わらず無愛想にああ、と返事だけよこしてきた。朝なんだからもう少しさわやかそうに出来ないのか、と少しだけ視線を横に動かした慎の視界に、諒の横にあるダンボール箱が入り、ふと違和感を覚える。
　昨日はふたが閉まらないほど中身があったはずだ。
　なのに今はふたよりも遙か低いところまでしかないように見える。
　変だな。
　変といえば、昨日自分はいつの間に寝たのだろうか。
「何その箱？」
　昨夜の騒動など知らずに寝ていた洵が尋ねると、ぴた、と諒の動きが止まる。
　慎が嫌味たらしく口を尖らせた。
「兄貴宛のバレンタインチョコだって。俺たちが食っていいんだってよ、洵」
　本当と洵が背中に問いかけると、止まっていた動きを再開させてすっと諒が立ち上がった。嫌味に対する返礼でもあるかと身構えたが、そうではない。
「物騒なものはもうないはずだから、食べていい」
　行ってくる、それだけ言って諒は家を出て行った。残された洵は首をかしげて慎のほうを見上げてくる。しかしこちらにもさっぱり意味が分からなかった。
「物騒なものって？」
「さあ？　なんだろーな？」

遅れたバレンタイン用小説…しょんぼり。
実は去年別ジャンルでクリームプレイはやったので、今年はバターとかそんな（ｒｙ
現代で同居してるとパジャマとか着れて可愛いね！
現実は中学時代のジャージとかそんな色気のない…夢は夢！