−relation−
「――分かったな、慎」 場所は綾凪署。突然現れた諒は慎の肩をつかむと強引に人気のないほうへと連れ出し、この街から出て行けと言い放った。 そんな二人の様子を眺めていた伊藤という刑事に命令した後、さらに高圧的な声で言い含めようとする諒。その剣幕と迫力に怯え、戸惑いながらも、何の後ろめたいところもない慎が納得できるはずもなかった。 この十年、叔母に弟の洵ともども預けたままで、顔を一度も見せなかった兄。あの時はそうするしかなかったとはいえ、いつかは兄のほうから迎えに来てくれると思っていた子どものころの自分。 待ちきれなくなって帰ってきて、さらに期待を裏切られ続ける。 逢うことも、近くにいることも許してくれない。 逢いたかったのは自分だけなのか。 「……かんねえよ……」 分かりたくもない。 理由も分からずに大人しく引き下がれるほど、聞き分けはよくない。 世話になった叔母ならともかく、これまで放置し続けたくせに、頭から跳ね除けるなんて酷すぎる。そんなので言うことを聞いてくれるのは、さっきの伊藤みたいな部下だけだ。自分は兄弟なのだから、大人しく従う必要はない。 「慎！」 どんなに怖い顔をしても無駄だ。 そんな意志を持って、下げていた視線を諒へと向けるが、相変わらず険しい表情を崩したりしなかった。負けるものかとにらみ返してくる慎を黙って見つめた後、ため息をこぼしながら目蓋を伏せる。 諒が折れた、そう誤解した慎が勝利の喜びを顔に浮かべようとしたとき、またしても腕をつかまれて引きずられていった。 「兄ちゃん…いた…っ！」 手加減なしに握られ、悲鳴にも似た抗議の声を上げる。しかし諒は力をゆるめることなく、非常階段をのぼっていき、慎もそれについていく羽目になった。 何階に着いたのか分からないが、今度は廊下を歩き出し、すぐ近くの扉を開けて中に身体を突き飛ばされる。 闇に包まれた部屋は右も左も分からず、慎はきょろきょろとするばかりだ。といっても、警察のお世話になることなど普通に生きていれば、そうそうあるわけではないから、どこだとしても慎には分からないわけであるが。 後から続いて入ってきた諒のほうへ向き直ると、カチリ、と金属の音がした。それはまるでドアの鍵をかけた音のような。 「……諒…兄ちゃん……？」 廊下からのわずかな灯りも失い、あとはパソコンだろうか小さな赤いランプが見えるが、そんなものは役に立ちはしない。窓のブラインドも下ろされており、隙間から外の灯りが入ってくるが、闇に慣れないうちは何も見えなかった。 今の諒の表情すらも。 「――この街から出て行くんだ」 また同じ言葉。 やはり兄はその意見を曲げる気はないらしい。 「やだよ！ ワケわかんねーよ！」 「出て行くんだ、慎」 静かだが、その中には苛立ちが秘められている。それが分かっても、慎はここで折れるわけにはいかなかった。そんな徹底抗戦の気配が伝わったのか、諒が近づいてきた靴音が耳に届く。 また怒られるのか。 ぎゅっと拳を握り締めて覚悟をしていたのに、叱責を受けるわけでも、殴られるわけでもなかった。 着ていたコートに手がかけられたかと思うと、その下に来ていたブレザーと一緒に剥ぎ取られる。灯りはついていないが暖房は入っているから寒くはないが、行動の意図がまったく読めない。 バサ、とそれらを床に捨てられ、次に諒はベルトに手をかけてくる。 「ぇ……兄ちゃ……」 止める間もなくベルトを外され、ズボンの前ボタンも開かれた。 ここまでされれば、さすがにおかしいと気づく。 「何、して……っ？」 部屋にはもちろん他に誰もいない。 だがだからといって、こんなところで脱がされるような趣味はない。 「出て行くつもりはないんだろう」 それはない。ないけれど。 十年の空白のせいなのか、なんなのか、兄の思考がまったく分からない。昔は笑顔をたくさん見せてくれたのに、帰ってきてから一度も見ていなかった。 こんなに近くにいるのに、遠い。 「……っ…！？」 諒の手がくつろげられたところから中に忍び込んでくる。すぐに下着の上から敏感な部分に触れられ、びくっと跳ね上がって後退した。が、腰の辺りに何かぶつかり、それ以上は下がれない。手触りからしてソファのようだ。 しかし逃げられない慎を追い詰めるように諒は迫ってくる。 「やめ……っ……」 もともと開かれていたシャツの襟の合間から見えていた肌に、男の吐息が触れた。逃げ場はもうなく、慎はぎゅっとソファを握り締めてそれをこらえる。 首筋に諒の唇が吸い付く。 その部分が火傷したかのように熱くて。 シャツのボタンも外され、諒の大きな手のひらが胸をすべる。そこから伝わるぬくもりも感覚も、慎の思考回路を溶かしていく。 「…ぅ……」 ざらりとした舌が首から鎖骨に移動し、その形を確かめるように這いずった。ぞく、と背筋に新たな感覚が生まれ、全身に襲い掛かってきたが、悪寒や嫌悪感ではない。もっと別の感覚。 なんだ、これ――。 身体の芯から熱くなっていき、膝ががくがくと震える。ソファをつかんで身体を支えているものの、それもいつまで持つか分からない。 こんなふうに他人に触れられたことがないから、驚き戸惑うばかりだ。そして諒の不可解な行動に混乱したままで、どうすればいいのかも分からない。逃げたら彼の意見を受け入れることと同じ気がする。それだけは嫌だった。 拒もうにも、拒む理由がないこともある。 無視されたり、避けられたりするのは悲しいが、構ってもらうのはうれしいのだ。諒に触れてもらうのが昔から好きだったせいかもしれない。覚えているから、忘れられずにいるから、今このときも。 「あ……っ……ん…」 さらに下へ降りてきた諒の唇が、慎の胸の中心にある突起を吸う。これまでにないくらいの刺激に、こらえきれず膝を突いてしまった。だがそれで終わりではない。諒も同じように膝をつき、執拗に慎を追い求めてくる。 最初はやわらかかった部分も、刺激により形作られていく。 「…ん、ぅ……に…ちゃ……」 諒によってどんどん訪れる変化。 変わっていく自分。 心がついていかなくて、すがるように呼びかける。しかし吐息とともに乱れ吐き出された言葉は、ちゃんとした単語になっていなかった。 「…ぁ……は、……」 やはり答えはない。 代わりにぴちゃりと胸から濡れた音が立つ。結局座り込んでしまった慎だが、その背はソファに預ける形になった。再度立ち上がろうにも、指先に力が入らない。身体がまったくいうことをきかないのだ。なのに諒の与える刺激には素直に応える。 自分でも聞いたことのない鼻にかかった甘い声。 びくびくと痙攣する身体。 中心にどんどん血と熱が集まっていくその感覚は、さすがに覚えがあった。普通に男として生まれ成長してきた以上、避けられぬ生理反応。 「…も…まず、い……から……っ」 視線を下へおろしても諒の頭があって見えないだろうが、そもそも闇の中であるから確認することはできない。それでも自分自身の身体だ。もぞもぞと腰の辺りが落ち着かない気分になってくる。 女の子でもないのに、胸を弄られただけで。 恥ずかしいような、情けないような。でもそんな自分を見ているのは諒だけだ。一回り近くも歳の離れた兄であるから、慎が生まれたときからの記憶まで残っているだろう。それこそおむつをしていた時代や、おねしょのことまで覚えているに違いない。諒にはそんなことまで知られているわけだから、いまさらという気もする。何より、こうなっているのは彼のせいなのだ。 でもこんなところでという理性が押しとどめようともする。 慎の投げ出された両足から諒が靴を乱暴に奪う。さらに脱げかけていたズボンと下着をつかみ、抵抗する間もなく強引に剥ぎ取られた。 もう場所も何もあったものではない。 余すことなくさらされてしまい、救いはあたりが真っ暗なことだけだった。 「…兄ちゃ…！」 なんとなく、それでも無防備なままではいられない。もじもじと膝と手で中心を隠したのだが、諒はそんなささやかな抵抗すら介することなく、両手を使って慎の両足を割った。その間に身体を入れて閉じられないようにし、今度は両手首をまとめておさえこむ。 隠すことなど許さないというように。 「あ――――！」 空いた手で上向き始めていた部分をつかまれ、最初は痛みに顔をしかめる。しかしさすがに加減してくれたのか、一瞬で痛みは消え、すぐに快楽へと変わっていく。 硬くなり始めた幹を諒の大きな手のひらがすべる。 「…あ……あ、あ……っ…」 先ほどまでの刺激により火照っている身体がさらに熱を増し、中心はそれに対して素直に反応する。見えなくても、触れている諒には十分すぎるほど伝わったはずだ。 なのにその手の動きは止まらず、我慢するなんてできるはずもなく、その先からはまだ透明な液体が零れ始める。幹を伝い諒の手を汚し、潤滑剤の役目を果たし、ぬちゅぬちゅと粘着質な音を立てていた。 健全な青少年である慎は今１７歳。一番性欲を持て余す時期である。 「っ……ぅ、あっ――――…」 脳が焼け付いたかのように、真っ白になる。 と同時に、色濃くなったものが内から溢れ出した。 びくびくと慎の身体が大きく震え、その後くたりと脱力する。特有の倦怠感と乱れた呼吸を元のとおりに戻そうと、大きく息を吸ったその時だ。諒の濡れた指先が脚の間に触れる。 「――っ！」 そこ、は。 赤ん坊のとき以来、他人に触れられたことのない場所。 さすがに抵抗を覚えずにいられないが、まだ身体に力が入らず、身じろぎをした際にごろんと床に転がってしまった。そして覆いかぶさるように諒の身体が上にくる。 「に、…ぃちゃ……んっ」 最後は自分の中に諒の指を飲み込んだ音だった。 濡れていたためか、するりと蕾の中に指一本くらいたやすく飲み込んでいく。とはいえ、慎には異物感がどうしてもあって、少しだけ息苦しい。 さっきから何も言わない兄。 気持ちよくしてくれたと思ったら、次に何をする気なのか。 いや、気づいていて考えないようにしている。まさかそんな、と思う気持ちがあったから。けれどそうでないのならこんな場所に触れるものか。 「う……く……っ……！」 指が一本増やされ、腹の下から胸へとこみ上げるような圧迫感が生まれる。息苦しさも倍になり、口からはうめくような音が漏れ出した。 やがてそれに慣れたころ、指が引き抜かれて苦しさが霧散する。 一気に身体の力が抜けた時を狙い、今度は指よりももっと質量を持ったものがそこにあてがわれた。 「――――っ！」 悲鳴がかき消える。 脳天まで貫こうとするような激痛。 裂かれる痛み。 思考なんてできるはずもなく、反射的に逃げようとする細い腰を、諒の手がしっかりと押さえつけた。 いつも自分に優しかったその手が。 いつも自分を守っていてくれたその手が。 いつもつないでいてくれた――…… 「……慎」 呼んで。 もっと呼んで。 そばにいて。 ずっとそばにいて。 「諒…兄…ちゃん……」 やっと逢えたんだ。 離れたくなんてないんだ。 触れて――誰よりも深く。 止まっていた動きが再開されるのとともに、薄らいでいた痛みもまた帰ってくる。しかし何度も揺られているうちに、中に一欠片、別の灯火がちらついた。 「…っ…ぅ……う、ん……っ」 遠くなろうとするそれを、無我夢中で慎は探り当てる。そしてつかみとった。するとじょじょに痛みの代わりに、身体が再び熱を帯び始めてくる。 苦痛がまったくなくなったわけではないが、それをも上回る感覚が満たしていく。 これ以上ないほどに諒が近く、距離を失って慎の中へと侵ってくる。 何度も突き上げられ、そのたびに声が上がった。けれどここまでくればそんなもの気にしている余裕はない。 「あ、あ、ぁ…っ…は……」 無意識のうちに諒の背中に腕を回し、もう離すものとかとしがみついている。制服の背に爪を立て、かきむしる。体格差こそあれ、慎の本気の力も決して弱いものではないのに、諒はその手を拒まない。むしろ腰を押し進めていく。 痛みに萎縮していたものが、また鎌をもたげ始める。そうなれば後は早い。本能が快楽を求めるために慎の身体を動かす。 熱い。 どこまでが自分で、どこまでが諒なのか。 混ざり合って、溶ける。 「…に、い…ちゃ……りょ…にぃ――…っ」 一番奥まで貫かれ、ちかちかと光が頭の中に焼きつく。 先ほどの何倍も強い快楽は、一人ではなく二人分だからか。それとも相手が諒だからか。 震える慎の白い腹部は、自身のものと諒のものでべっとりと濡らしている。欲望の成れの果て。けれどそれを汚らわしいものだとは感じなかった。一人で始末するときにさえ感じてしまう罪悪感や、虚脱感がなかったからかもしれない。 むしろ幸福にさえ思う、なんて。 赦されるのだろうか。 そんな空気を引き裂いたのは携帯電話の音。 慎のものではない。すぐに諒が身を起こして、ポケットから電話を手にして耳に当てる。 「――俺だ。……ああ、いる」 すぐに動くことができず、そんなやり取りを聞きながら、慎は無理した身体を休めていた。通話が終える言葉とともに電灯がともり、パッとあたりが明るくなる。まぶしさに一瞬目を瞑ったが、すぐに自分の目の前に立つ姿が視界に入った。 何事もなかったかのように、きっちりと警察の制服を身につけているその姿は、別の意味でまぶしく感じる。 だがそんな慎の感想など我知らずといった様相で、諒は銀色の眼鏡のフレームと同じように冷たい視線で見下ろしてきた。 「いつまでそんな格好でいるつもりだ。下まで送っていくから支度をしろ」 「……諒…兄ちゃん……？」 ハンカチを投げ落としたのは、これで拭けという意味だろうか。 慎にしてみれば、突如冷水を浴びせかけられた気分である。 いや、むしろ、自分が誤解していただけなのかもしれない。 あの行為は意志の疎通を図るためじゃなくて、他の意味が。 「こんな真似を二度とされたくなければ、この街から出て行くんだ、慎」 幸せに感じたことが、音を立てて崩れていく。 近づいたと思った距離が、見えないほどに遠くなっていく。 諒の姿がぼやけ始め、輪郭が崩れていく。 零れ落ちた涙も、呼び声も、届かない。 ――ねえ、兄ちゃん。何処にいるの？ |
諒慎のエロが読みたくて、衝動的に書いたもの…
だけど、自分で書いて効果あるのかしら…いやない(反語)